身代金目的ではない少年少女の不気味な誘拐 フィリピン・ミンダナオ島、「イスラム国」が跋扈する島から

掃討作戦に向かう政府軍の車両(筆者撮影)

椰子の木の向こうに広がる凪いだ海は、油を流したようにべったりとしていた。目の前の草っ原では、水牛が草を食んでいる。のどかという言葉以外に、形容する言葉が見つからない。

私はフィリピンのミンダナオ島にいた。
時間が止まったような光景とは、裏腹に政府軍とISとの戦闘が、盛んに報じられたことを覚えている人も多いだろう。フィリピンとイスラム教の関係は、カトリックの歴史より深い。15世紀にマゼランがこの地にやって来るまで、フィリピンではイスラム教がすでに浸透していた。

スペインの植民地化というのは、今日まで続くスペイン系や華僑の大財閥による地元住民への搾取とともに、宗教的な対立を生み出すきっかけとなった。ISはこの数年の間に突然生まれたわけではなく、数百年に及ぶ宗教対立の末に生まれたのだ。

ミンダナオ島ではISとの戦闘ばかりでなく、不気味な事件の噂を耳にした。たまたま乗ったタクシーの運転手言ったのだった。

「道路端で遊んでいる子どものところにワゴン車がやって来て、有無を言わさず乗せて連れ去れるんですよ。どこかの病院へ連れて行き、臓器を抜き取るんです。内臓を抜かれ死んだ子どもの遺体には三万ペソ(日本円で約7万円)の現金を入れられ、連れ去った場所に戻すっていう話です」

フィリピンではスラムの住民が臓器を売る話をニュース映像などで見たことはあったが、子どもが殺害され、その臓器が売り飛ばされていることは初耳であり驚きを覚えずにいられなかった。
実際にフィリピンのニュースサイトを検索してみると、何件もの記事が出て来る。そのうちの一つは、ジャーナルオンラインというニュースサイトに掲載されていた。記事はこう伝えている。

『殺害されていたのは4歳の少年で、3月19日に自宅から数メートルの距離にあるバスケットコートで遊んでいるのが目撃されたのを最後に行方がわからなくなっていた。それから三週間以上経った後、少年の家族が一匹の犬が腐った人間の足を咥えているのを目撃、犬に近づいてみると腐った少年遺体が発見されたのだった。少年の内臓は抜き取られていたことからも、少年は誘拐され、臓器売買に利用されたと推測されるが、地元警察は誘拐ではなくて何者かに暴行されその場で死亡し、野良犬が少年の内臓を食べ尽くしたのではないかと違った見方を発表している。現在、死因に関して、詳しい原因を調査中である』