身代金目的ではない少年少女の不気味な誘拐 フィリピン・ミンダナオ島、「イスラム国」が跋扈する島から

私はミンダナオ島北部のカガヤンデオロ市から、海を隔ててマレーシアと向かい合うザンボアンガを結ぶハイウェイが通る海辺の町にいた。このハイウェイ沿いで誘拐事件が頻発しているという。のどかな海辺の町の光景とは裏腹に、このハイウェイをクラクションを騒々しく鳴らしながら、日本製のランクルやハイエースなどのワゴン車が通り過ぎていく。

「あれはムスリムの車だよ。容赦なく飛ばしていくから危なくて仕方ないんだよ」

この日私を案内してくれたヨヨイと呼ばれている青年がどこかムスリムのことを蔑むような口調で言った。
ジプニーと呼ばれる米軍のジープを改造したことが起源の乗り物で、被害者の家へと向かった。5分ほど乗っただろうか、ヨヨイが運転手に声をかけると、ジプニーはキィーツとブレーキ音を立てて止まった。

「ここですよ」

とヨヨイが指差したのは、ハイウェイ沿いの掘っ立て小屋だった。幼児誘拐の被害者というと身代金の要求がつきものであり、立派な家に住んでいることをイメージしてしまうが、この地で発生している幼児誘拐は、身代金を要求するものではなく、連れ去り、殺害したうえで臓器を抜き取るもの故に、貧富の差は関係なく、子どもであれば誰でも良いのだ。ハイウェイ沿いで遊んでいる子どもたちが、特に狙われて連れ去られているのだという。私が訪ねた被害者の家は誘拐犯にとって好都合なのだった。[つづく](取材・文◎八木澤高明)

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