昔の仲間に持ちかけられた「厚遇な仕事」に気を付けろ! 逃げられなくなって、あなたが処罰される!

 椎木光親(仮名、裁判当時43歳)は、うつ病とパニック障害が原因で仕事を辞めてから生活保護を受給して生活していました。
 彼は病気を発症する前は土木作業員としてずっと働いていて重機を扱う免許など資格も多数持っていました。病気さえ治れば働きたい、彼はそう思いながら治療を続けてきました。

 数年間に渡って治療を受けて症状も治まり、ようやく働けそうな状態になった時に出会ったのが上田(仮名)という男でした。
 上田は彼が昔、「暴走族にいたときに”ケツモチ”をやっていた」という知人です。何十年ぶりかで、偶然居酒屋で再会したという二人はまた以前のように連絡を取り合うようになりました。そして彼は上田に、

「ユンボ乗れるよな? 仕事しないか?」

 と持ちかけられました。上田の話では日給は二万円。その時は具体的な仕事内容は話してくれませんでしたが、

「伐採や造成だと思ってました。生活保護をずっと受けてるわけにもいかないので、リハビリがてらやってみようと思いました。高給だし、知り合いの紹介なので変な現場ではないと思ってました」

 と、上田に紹介された仕事をやってみることにしました。

おかしな仕事の内容

 勤務初日、彼はすぐにその現場が「変な現場」であることに気づきました。
 彼が初日にやらされた仕事は、現場に空けられていた大きな穴に、ダンプから降ろした残土を捨てていく作業でした。残土の中にはコンクリート片や廃プラスチックが大量に混ざっていました。それはどうみても産業廃棄物でした。産廃を処理せずに廃棄すること、それが犯罪なのはわかっていました。
 彼はすぐに上田に電話しました。

「あの…これ、ゴミっぽいんですけど……」
「お前は言われたことやってりゃいいんだよ。そのために高い金払ってるんだから」

 まるで取り合ってくれませんでした。

「すぐに辞めようと思いました。でも、相手が上田さんですし、怖くて言えませんでした。上田さんも怖かったですけど、上田さんに紹介された加藤(仮名)さんはもっと怖くて……」

 加藤という男は上田によると「組長」だったそうです。上田と加藤が恐ろしくて、彼は違法行為とわかっていながらズルズルと仕事を続けてしまいました。一度は辞めようとしたこともあったそうですが、その時には、

「ボコボコにされました。蹴られたり、スコップで殴られたり……」

 という目に遭ったそうです。それからは毎朝上田から、

「今日もちゃんと行けよ」

 と電話がかかってくるようになりました。

「逃げても多分探されていたと思います」

 彼には辞めることも逃げることも出来ませんでした。

 はじめに言われた「日給二万円」、これも実際には守られませんでした。彼が受け取っていたのは日給一万五千円でした。上田がピンハネしていたようです。もちろん彼は上田に異議をとなえることはできませんでした。

それでも刑は重くのしかかる

 一連の事件が判明し逮捕されるまでに彼が不法投棄した産廃は約141トンもの量になりました。
 産廃の量が異常に多いこと、土地所有者に無断で産廃を投棄するという悪質な犯行であること、犯行の重要な役割を担っていたこと、などが考慮され「極めて従属的な関係」だった彼に対しても検察官は「懲役2年、罰金100万円」という重い刑を求刑しました。
 裁判所が実際に下した判決は求刑よりも少し軽く「懲役2年で執行猶予4年、罰金80万円」というものでした。

 判決を読み上げた後、裁判官は彼に、

「一定の罰金は払ってもらうことになりますけど、恐ろしい目に遭っただろうし病気をきちんと治して今後は頑張ってください」

 と語りかけていました。
 ようやく生活保護を抜けて自立への第一歩を踏み出そうとしていた矢先に、彼は事件を起こしてしまいました。逃げることが出来ない状況の中で、一体どうするべきだったのでしょうか? 

 罰金を払えない彼は労役で罰金を支払い、今後はまた資格を活かして土木関係の仕事を探していくつもりだそうです。(取材・文◎鈴木孔明)