いわゆる働き方改革関連法案が成立してから約1か月半、猛暑が続く中、国会での大騒ぎなどはすっかり忘れ去られているが、来年4月から施行される法律である。さて、法案の是非はひとまず置いとくとして、この法律がフツーに生きる人々に対する法であることは間違いない。では法の埒外にいる人たちはどうしているのか? 実はいまこの日本では、時給263円で仕事を請け負っている人々がいるのだ。
現在の日本における最低賃金は平均で848円。もっとも安い福岡を除く九州各県でも737円であるので、263円というは気の狂った賃金である。ではこのベラボーな賃金がどこで行われているかというと、それは横浜にある寿町だ。
寿町は労働者のための簡易宿泊所が集まる街で、ここ寿町と東京の山谷、そして大阪の釜ヶ崎を通称"三大ドヤ街"と呼ぶ。ちなみに、ドヤとは宿(やど)をひっくり返した言葉だ。寿を始めとするドヤ街は、高度経済成長期などに主に出稼ぎ労働者で活気を見せていたが、現在はバブル崩壊以降長引いた不況でその面影はない。また、ドヤに集住し高度経済期を支えた労働者たちはみな高齢者となり、どの街も障害や持病を持った人が目立つ。実質的には福祉の街、と言ったほうがいいだろう。
そんな街での263円の仕事はなにか。寿のある街角に貼ってあった一枚の求人ビラによると、衣類を購入するための並び(代行)ということらしい。賃金は5000円だが、拘束時間は15時から翌朝10時目安、19時間あまりで時給に直せば約263円となる計算だ。季節がよければ話はまた別だが、このクソ暑い中、19時間並ぶというのは正直楽な仕事とは言えない。まして時給263円ならなおさらだろう。ではなぜ、このような低賃金がまかり通るのか?
まず重要なことは、いま現在寿町に住んでいる人々の多くが生活保護を受給しているということ。一説には8割とも9割とも言われている。つまりこの種の求人は、ドヤに住む人たちに対する救済措置であると同時に、(見ようによっては)生活保護受給者を相手にした貧困ビジネスと考えることも出来る。もちろん、5000円の手取りをありがたいと思う人もいるから、それはそれで構わないのだが、それでもベラボーな賃金であることに違いはない。
問題は、寿町などに住む人々にいい意味でも悪い意味でも関心を持つのは、左派系や宗教者を中心としてNPOやボランティア、そして貧困ビジネスも含む昔ながらの裏社会の人々だけだということ。地域行政は別として国の対策はゼロに等しく、はっきり言ってしまえば彼らは「棄民」である。
だが、その棄民からしてみればボランティアはもちろん、時には裏社会の人間ですら国よりは遥かにマシな救世主だったりする。
結論。たった時給263円のお仕事から見えてきた現実の根っこには、高度経済成長を支えた労働者を弊履の如く捨て去る国家の姿があったのだ。明日は我が身......と思うのは筆者だけではあるまい。(取材・文◎鈴木光司)
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