『不連続殺人事件』より
ロッカーで俳優の内田裕也さんが亡くなりました。妻樹木希林さんの逝去から半年経って旅立ちました。79歳。
関連記事:改めて噛みしめる樹木希林さんの言葉 頑なまでに本を出したくなかった理由とは|吉田豪 | TABLO
内田さんと言えばロッカーのほか、俳優としての側面も持っていました。一番有名なのは「コミック雑誌なんかいらない」「ブラックレイン」などですが、やはり古典ミステリーの傑作、文豪坂口安吾の名作「不連続殺人事件」での好演を忘れてはいけません。
原作では、戦後の作家、画家、詩人などが登場し、語り手である「私」の友人の別荘で大量殺人が起こります。坂口安吾はミステリーの原点「フーダニット」、つまり「犯人を当てたら賞金を出す」と公言し話題を呼びました。「不連続殺人事件」のプロットはアガサ・クリスティー作品などでも見られてはいますが、分かっていてもやっぱり読ませます。
関連記事:樹木希林さんがある女優をセクハラから救っていた パワハラ・セクハラが酷かった昭和映画界のイイ話 | TABLO
主人公は探偵の巨勢博士。若く、小柄で、喧嘩も強いという設定。その他、個性豊かな、当時は文壇の誰かをモデルにしたような人物が揃います。その中で重要人物が土井光一、通称ピカ一です。粗暴でありながらどこか繊細なピカ一。成人になってから映画の存在を知ったクチですが、「このピカ一を誰が演じているのだろう」と思ってDVDのジャケットを見たら内田裕也さんでした。
原作ファンとしては半ば、ドキドキしながら「ちゃんと原作通りに演じているのだろうか」と思っていましたが......。
ハマり役でした。
どこかぎこち無さもあってそれは「戦場のメリークリスマス」のビートたけしにも通底するような演技でした。考えてみれば「この人しかいない」と思うようなキャスティングでしたね。内田裕也さんの好演が光る名作です。
内田さんの存在感は誰もが分かっている事ですが、是非「不連続殺人事件」を見直してみたいと思いました(文◎久田将義)