能町みね子さんに聞きました 「座布団投げ」「コール」は有り無し? 大相撲人気で観客のおかしなマナー

2019年03月10日 マナー 久田将義 大相撲 対談 能町みね子

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「風情はあるんですけど座布団投げは危険。禁止した方がよい」

――最近の相撲人気で忘れられがちになっているのが、大相撲観客のマナーです。例えば座布団を投げる行為ですが......。

能町みね子さん(以下・能町):座布団を投げる行為の起源にはいろいろな説があるんです。有力なのは、明治時代頃にごひいきの力士が勝ったときお客さんが自分の羽織などを投げ、それを返しに来てくれる時にご祝儀を渡す、という粋な風習があったようで、それが後に変化したのではないか、という説です。でも、サッカーでも野球でも、興奮して物を投げ込むということがありますから、今はほぼそんな意味になっちゃってると思います。

――野球だとメガフォンを投げるという行為ですね。

能町:そうですね。私も、横綱が負けて座布団が舞う光景には風情があるように思ってました。でも、最近は最初から投げる気満々の人がいますよね。それが当たり前になってくるようなら、やはり公式に「禁止だ」と言うべきだと思います。今でも場内アナウンスで「危険なので投げないで下さい」と言っているんですけど、それで罰則があるわけでもないし。

――見つけたら注意くらいはするのでしょうか。

能町:協会としては、していないですね。でも、柔らかいとはいえ重量があるから実際危険なんですよ。客席周辺で仕事中だった行司さんの頭に後ろから命中して、前にのめって顔をぶつけ、口の中を切ったという話を聞いたこともあります。お客さんにはおじいちゃん、おばあちゃんもいますし、力士を狙って投げるのなんて論外ですし。

――首に当たったらヤバいと思いますよ。メガフォンだと当たっても痛くないと思いますが......。

能町:野球場のメガフォンだとまずふつうは届かないですよね。でも、座布団は届いちゃうので。

――芸者さんのような観客もいるじゃないですか。せっかく髪を結ってきたのにあたったら気の毒だなあって思います。

能町:本当の相撲ファン――毎日取組を気にして、好きな力士がたくさんいて――という人は、まず投げないですよ。大相撲人気は確かに上がりましたけど、国技館にはふだん見ていない人がたくさん来てるんですよね。「そんなに知らないけど、チケットをもらったから来てみた」みたいな。お祭り気分で酔っぱらって、マナーもなく座布団を投げるのって大概そういう人だと思ってます。

 ただ、もちろんそういう興味の薄い人も来てくれてこその興行であり、相撲ですから、お客さんとして歓迎したい一面もあるし、難しいところです。相撲協会もその辺は甘くならざるをえない。せっかく盛り上がっているし、お客さんが入っているから強く言いづらいんだと思います。本当に事故が起きてからでは遅いんですけど......。

――映画は上映前に「録音や撮影は禁止」と出るじゃないですか。そういう対応が必要ですかね。

能町:そうですね。入場前に最低限のマナーを書いたものをどこかに入れておくなどした方がよいと思います。今も一応取組表には書いてあるんですけど、もう少しちゃんとしたものを用意するとか。九州場所だけは対策をしていて、座布団を二枚ずつつないで投げられないようにしてるんですよ。
 どこかの記事で、去年「横綱の稀勢の里が負けても座布団すら舞わなかった」と書いたものを見たんですけど、九州場所ではそもそも舞わないんだよ、とツッコみましたね(笑)。

 そういえば九州場所は、かつて稀勢の里が白鵬に勝ったとき、座布団を投げられない代わりなのか、大きな声で万歳をしはじめた人がいて、場内に万歳三唱が起こったことがありました。別に白鵬がみんなの敵じゃないのに、あれはとても気味が悪かったです。座布団を禁止したら別のおかしなことが起こるかもしれないし、難しいです。

――白鵬に座布団を投げていた中年女性がツイッターで拡散されていましたけど当たらなくて良かったですよね。

能町:縦回転で一直線に飛んできてましたね。当たらなかったけど、完全に狙ってますからひどいですよ。あそこまで悪質なのはサッカーみたいに個人特定して出禁にしたほうがいいです。大体、あまり相撲を知らない年配の人は、モンゴル力士か否か、だけで善し悪しを判断しますね。国技館ではよく聞きますもん、隣の席から「アレもモンゴルか?」みたいに言ってる人。自分の出身県の力士を応援するのは分かるけど、国対国で見るなよ、って。

――ネトウヨが気にくわない人を在日認定しちゃうような。

能町:いや、気にくわないのが先にあるんじゃなく、外国ならすべて敵、みたいなことです。よく知らないからとりあえず日本人を応援します、日本人が日本人じゃない奴を倒したら万歳、みたいな。ちゃんと応援してる人は、国籍なんかじゃなく個人で見てますよ。


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「コールは力士に対しての礼儀がないのでは。そもそも禁止されています」


――コールはどうですか。

能町:コールも禁止で良いと思ってます。北天佑(最高位大関。1990年引退。キリッとしたルックスと均整の取れた体格で女性ファンが多かった)の頃にもあったとは聞いてますが、今ほど観客全体に波及するっていう事はなかったんじゃないかなあ。

 最近は応援がスポーツじみちゃって、故郷から百人単位で応援団が来て、リーダーみたいな人がお酒も入ってた感じで立ち上がってコールを煽ったりするんですよね。他のお客さんも巻き込んで。一応あれは、ちゃんと相撲協会の規則に明文化されてる禁止行為(文末に記載)なんですけど、全然守られていないですね。

 あれは、風情がまったくないですよね。伝統文化だということをもう少し頭に入れてほしいです。だって、例えば歌舞伎では絶対やりませんよね。「●○○●屋!」とベストなタイミングで声をかけるから風情があるんであって、「エ! ビ! ゾ! はい、エ! ビ! ゾー!」なんてみんなでやってたら台無しですよ(笑)。

――コールしやすい音として豪栄道関が思い浮んでしまいます。「ごーえーどー」が耳に焼き付いちゃって。とは別に例えば御嶽海って言いにくいじゃないですか。

能町:いや、御嶽海は長野から応援団が大挙してきますから、「みった、けーうみ!」って思いっきりやってますよ(笑)。

 コールをやめてほしいってのは、まず風情という曖昧な理由になるのでなかなか説明しづらいところがあるんですけど、風情以外で語るとしたら、礼儀と言ってもいいかなあ。コールしに来ている人って、その一人の力士だけを見にきていて、対戦相手の力士を敵としか見ていないように感じちゃうんです。相撲は礼に始まり礼に終わると言われますけど、コールは対戦相手への尊重を感じなくて嫌なんですよね。
 それに、例えばサッカーや野球は一度来て一試合しか見ないけど、大相撲は、幕内だけ見に来たとしても二十取組(≒試合)ほど見ることになるわけですよね。コールしに来る人はほかの十九取組をなんとも思っていないように感じちゃうんです。

――他の力士にも失礼だという事ですよね。

能町:そうですね。似た話で、例えばたった一人の力士だけを応援しに来た人が、他の取組が始まるタイミングや取組の最中に平気で立ち上がって歩いたりするんです。後ろの人が見えなくなるのに。幕下の取組を楽しみにしている人もいるんですよ。せめて気を遣ってしゃがんでよ、と思いますよ。

――お客さんと一緒に作り上げるっていう文化があると思うんですよ、興行って。お客さんも自覚しないといけないですね。

能町:そうですね。あんまり小言ばかり言ってると堅苦しいものだと思われちゃいますけど、ちょっと最近は無粋な人が多すぎるので、注意してもいいんじゃないかと思います。大声を出して応援するのは全然いいと思うんですよ。「せーの、遠藤〜!」というのは気持ちがあって、いいと思います。でも、皆で節をつけて「エ・ン・ドー! そ〜れエ・ン・ドー!」みたいなのは、応援じゃないですよ。ただ自分たちが気持ちよくなってるだけ。大相撲の文化ではないです。

――近年では空前の相撲ブームと言われた若貴時代にもなかったですよね。

能町:なかったと思いますよ。コールがひどくなったのは白鵬の全盛期くらいからじゃないかなあ。いちばんタチが悪いのは、「アンチ白鵬コール」みたいなやつです。
 例えば稀勢の里なり豪栄道なりが優勝できそう、みたいな時に、白鵬に負けてほしいがために、相手の日馬富士コールが起きたりしてました。実質的には、白鵬に対する「負けろコール」です。モンゴル出身力士にコールが起きることなんてまずないのに、その時だけ起きたんです。

――コールはやっている人もカッコ悪いと思わないといけない気がするんですけどね。

能町:それから、立ち合いの時にまで声を出している人がいますね。あれは、本っっ当に止めてほしいです。一番集中しなきゃいけない瞬間なのに。

――相撲ファンの文化人の人もコールについては苦言を呈さないんですかね。

能町:いや、コールをよく思っている人はほとんどいないんじゃないかと思います。やくみつるさんなんかも批判してなかったですかね。

――どの番組か忘れましたがやくさんはタオルを広げている人に苦言を呈していたような気がします。

能町:困ったことに、あれって売っているんですよね(苦笑)。あの文化もあまり好きじゃないんですけど......。

――それと、A3くらいの紙に縦書きで力士の名前を書いて広げる人。

能町:あれは特定のお客さんが配ってるっていう話を聞きましたね。あれもひどく野暮ですよね。ワープロみたいな字体で。筆ならいいってわけじゃないですけど。

――応援はタオルまでは仕方ない、と。

能町:私としては好きではないですどね......。ジャニーズみたいにウチワを持っている人もいます。うーん......「好きじゃないなあ」程度ですね(笑)。「やめてほしい」とまでは言わないです。

――「俺って雰囲気壊しているなあ」とかお客さんに感じてもらうのが良いですね。

能町:でも、大相撲ファンに言っても仕方ないんですよ。やっているのは大相撲全体のファンじゃないから。非日常な空間に来てテンション上がっている人がやってんです。偏見かもしれないけど、中高年の人が多いと思います。若い人は本当に好きでないとまず見に来ないし。

――相撲ファンでないからタチが悪いですよね。

能町:そういう人って、「いや俺は相撲ファンだ。北の湖や千代の富士は強かったぞ」みたいな感じなんじゃないかなあ(笑)。国技館に来たこともほとんどないだろうし、今の力士のことは全然知らなそう。

――立川志らくさんみたいな人ですか?

能町:志らくさんはさすがにコールはしないと思いますけど(笑)。まあ志らくさんにはツイッターをブロックされてるし、もう好き放題言えます。

 志らくさんは去年、ワイドショーであまりにも協会を批判して異様に貴乃花親方(当時)を持ち上げるので、貴乃花親方にもこんなに問題があるんだ、ということを私はまじめに言っていたわけですね。そしたら、最終的に「落語の事なら喧嘩しますが相撲の事では喧嘩はしません。清国の息子の(林家)木りんなんざバリバリの相撲協会右翼で私と意見は正反対だけどもなんとも思いません」なんて言い出したので、本当に腹が立ったんですよ。

 私だって、落語界での騒動については無責任なことは言わないですよ。でも志らくさんは、あれだけテレビで好き放題言い散らかして、反論されたら「落語の話ならマジになるけど、相撲は別にどうでもいい(笑)」ってわけでしょ。ひどいもんですよ。

――門外漢なら門外漢なりの話し方があると思いますよね。

能町:事情も知らないのに片方に完全に肩入れして。開き直って、悪い意味での「コメンテーター」に徹してるんでしょうね。


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――他に気になるお客さんの態度はありますか?

能町:この際だからいろいろ小言を言っておくと、最近SNS周りが心配です。といっても、お客さんよりも力士当人の話ですけど。稀勢の里が横綱を辞めた時に「SNSなんかやる意味が分からない」「力士は土俵の上が全てだから他で愛想振りまく必要はない」みたいな事を言ったんですが、それを「古すぎる」とするファンもいたんです。

 確かに相撲協会もツイッターをやっていて、そのおかげでファンも増えましたし、白鵬もツイッターをやってます。最近は力士が「カワイイ」キャラでウケることもあるし、私自身も、NHKの「シブ5時相撲部」ではわりとそういうポイントを取り上げてます。だから、稀勢の里の言うことは古くて固い、というのも一理あると思います。ただ、私は稀勢の里の言いたい事も分かるんです。

 気になっているのは、10代とか、まだ一人前じゃない力士の子。SNSでも野放し状態なんですよね。平気で「○○部屋の○○」と名乗ったうえでちょっと危なっかしいこと事を書いている子も少し前にいたんですよ。地元の友達と普通のやり取りをしていたり。で、それにファンが馴れ馴れしく絡んでいたり......それが丸見えというところに、どうも気持ちの悪いものを感じていて(苦笑)。

 こういう事態を見ると、稀勢の里の言う事もわかるんですよね。力士は、今どき髷を結って異世界で暮らしているんだから、一般の世界と少し距離のある存在であってほしい、謎のある存在であってほしい、という思いがまだ私の中にある。あまり何から何まで書いちゃって、ファンもそれを煽っていくようだと、ちょっと嫌かな。
 ある程度管理している人がいるうえでやらないと、見境がなくなりそうで。

 お相撲さんも血気盛んな男ですから、ファンと何かあったりは、そりゃしますよ。でも、ややこしい関係じゃなかったとしても、SNSであんまり仲よくワイワイやってるのはなんだかねぇ......って。

――距離感がマヒしちゃいますよね。漫画「のたり松太郎」が好きなんですけど、スナックのお姉さんとかソープとかで遊ぶシーンが出てきて面白いです。

能町:まあ、力士は女大好きであってほしいです(笑)。それはそれでいいです。


※今回は観客のマナーに焦点を当ててみました。10日からいよいよ春場所が始まります。力士の活躍とともに、解説者も「今日は誰かな」と思いながら見ると更に楽しめるのではないでしょうか。コールに関しては協会の方々、以下の規約に基づいて何とかして頂ければ幸いです。(聞き手・久田将義)


相撲競技観戦契約約款 第3章観戦 
第8条(禁止行為)11. 相撲場内外でみだりに気勢を上げ騒音を出す行為
第9条(応援行為)3. 観客を組織化しまたは観客の応援を統率して行われる集団による応援 

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