金融商品取引業の登録を受けずに米国の投資会社「SENER(セナー)」をかたって出資を募ったとして金融商品取引法違反(無登録営業)の疑いで柴田千成、古川慎、植木貴裕、道端真志、伊藤公一、芳野聡之、村山暢、村井邦旭の8名が逮捕された、という報道が平成30年年末にありました。
主犯格は柴田、古川の2名ですが事件に関わったうちの1人、伊藤公一(裁判当時66歳)の裁判を傍聴してきました。
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彼に与えられていた仕事は「説明会」という名目で開催されていたセミナーの司会者でした。彼が以前に勤めていた会社で知り合った柴田に「月50万円出すから手伝ってほしい」と頼まれセナーに関わるようになったのです。
説明会ではセナー社はアメリカのワシントンに本社を構える資産運用会社で、セナーに投資すれば年利20%の配当金が入ってくる、と説明されていました。また誰か出資者を紹介するとその人間の出資した額の一部が紹介料として貰え、紹介した人数に応じて組織内でのランクがアップしていく仕組みでした。
このセミナーは情報をネットには上げずおおっぴらには行われていませんでした。セミナー参加者は「セナーが本格的に日本で事業を展開するまで誰でも参加できるようなオープンなものにはしないでください」と言われていたようです。クチコミや人づてでセナーは拡がり、説明会は約3ヶ月で146回開催されました。
ある日突然、音信不通に
セナーへの投資は円やドルではなく『セナードル』という独自の通貨で行われていました。投資をするためには円やドルをセナードルに両替しなければなりません。交換レートは1セナードル約120円でした。説明会後には次々とセナードルを買って投資する者があらわれました。
一部、実例を挙げます。
ハセガワは10000セナードルを出資。
ヒラノは10000セナードルを出資し、その後10000セナードルを出資。
ワタナベは50000セナードルを出資。
オカモトは10000セナードルを出資しその後5000セナードル、さらに追加で50000セナードルを出資。
説明会では「いつでも解約して出資金を引き上げることができる」と言われていました。
しかし、ある日突然セナー社に「監査」が入り音信不通になりました。解約などもちろんできません。配当金も当然貰えません。出資者たちの元に残ったのは「セナードル」という、何の使い途もない紙くずだけでした。
「今は倉庫で仕分けや検品作業の仕事をしています。もうネットワークビジネスには手をだしません」
逮捕された8名のうち、伊藤の立場は下の方でした。彼自身も30000セナードルを購入していて、当然お金は戻ってきていません。マルチだとわかっていなかったようです。
「当時は同じようなネットワークビジネスがたくさんあって、日利1%なんてものもありました。それに比べるとまともだと思いました。アメリカで作ったという映像を見せられて...ちゃんとしてると思っていました。それに私は説明をしていただけで、罪になるとは思ってませんでした」
彼も被害者とも言えますが、求刑は懲役1年6ヶ月、罰金100万円でした。
怪しい情報を売る奴に気を付けろ
伊藤を含め被害者たちは、何故こんな投資詐欺に騙されたのでしょうか?
「セナーはいろんなインデックス投資をしているとは聞いていました。ただ...具体的に何でどうお金が発生しているのかはわかりませんでした」
と、伊藤は供述しています。
「楽に儲かる」という誘惑で、被害者は思考を止められました。欲望は人の目を見えなくさせます。そして人の欲望につけこむ人間は常に存在しています。
今も現在進行形で怪しげな情報を発信して高額な情報商材を売りつける詐欺師まがいが「インフルエンサー」などと持ち上げられているのも目にします。
「騙される方が悪い」
「自分は大丈夫」
と思う人もいるかもしれません。そんな人に限って警戒心も緩く、彼らからすればいいカモになりがちです。十分にお気をつけください。(取材・文◎鈴木孔明)