水野美紀が主演『埼玉愛犬家殺人事件』とは 犯人関根が残した「ボディを透明に」の意味 東京拘置所にて2017年に死亡
急速にしおれていった父親の仕事
関根が犯罪に手を染め始めるのは、昭和30年代のことである。彼を犯罪へと導いた理由のひとつに、家業の衰退ということもあったのではないか。
関根の父親は群馬県の新田郡からこの地へ来て、下駄屋を開いた。戦前まで下駄は日常生活に欠かせないものだったが、戦後生活が西洋化し、昭和30年代にはゴム製のサンダルなどが普及すると、急激にその生産量を減らし、下駄屋の多くは町から消えた。関根の父親が開いていた下駄屋も昭和30年代後半に店を閉じていた。
当時10代後半から20歳前後の関根は、先細っていく父親の家業をその目に焼きつけていた。もし仮に、下駄屋稼業が経済的に旨味のあるものだったら、彼は父親の跡を継ぎ、土間で犬を繁殖させ売るようなことを思いつかなかっただろう。
家業の衰退によって、生活がきつくなり、赤貧を味わった経験が、後年事件を引き起こした背景にあった。金への執着はこの土地の長屋で培養されたといっていい。
罪を犯したのは関根自身であり、到底許されることではない。ただ、時代の流れという個人の力ではどうすることができないものも、犯罪の背景には間違いなく存在するのだ。
夕暮れ時、秩父の街中を歩いていたら、街並みの向こうに山肌が無残にも削られた武甲山が見えた。元々は勇壮な山容を誇っていたという武甲山だが今では石灰岩の採掘によって見るも無残な姿になっている。山そのものが人間の欲望により姿を変えてしまっている。
己の欲望のために人肉を切り刻むことも厭わなかった関根元。武甲山の山並みと関根元の心の闇が重なって見えた。(2018年の取材記事より再編集)