福島第一原発事故 10年目で出て来た新事実 「フクシマ・フィフティー」のアナザーストーリー 第4回(インタビュアー│奥山俊宏、久田将義)

奥山:それは12日に?

マサ:いつやったかわからないです。だいぶあとになって聞いたんで。「あれは俺があとからやったんだけど、結局ダメだった」っていうのを聞いたんです。

奥山:すごく面白い話です。

マサ:そうですか?

奥山:そういう話はまったく出てないですからね。

マサ:細かい話なんで、ホントに。

奥山:でもすごく大事な話だと思いますよ。

 

【2012年6月に公表された東京電力自身の事故調の最終報告書には「発電所対策本部復旧班は余震が発生し作業が中断することがあったが、12時53分、バッテリー交換作業を完了。運転員が起動操作を行ったが、セルモータの地絡により使用できなかった」と記載されている。】

マサ:やっぱり表に出るのは、燃料がどうしたとか、そっちの話なんで。

奥山:ディーゼル消火ポンプが11日の夕方に動いていたのに夜中に止まって、それっきりになってて、それはどうしたんだろうっていうのは(東京から公表された時系列に)出てる話で、ちょっと気になる話だったんです。

マサ:その前の年ぐらいまでは、消火系の水っていうのも炉心には行かないようになってたんですよね。それを改造して炉心にいけるようにしたんです。だから使えるような。ま、使えなかったんですけど。なかったんですよね、それまでその設備が。

奥山:12日の朝に1号機のタービン建屋に入るときには、そういう汚染が出てきて広がってるっていう情報はなかったんですか?

マサ:そのときは情報がないだけで。ぼくらは東電から指示された、持ってったAPD(警報つき個人線量計)、アラームの設定が、たしかマックス5とかで。

久田:5ミリ?

マサ:そこのところはホントに、5日間の中で、11日から15日の中で、最初に自分たちが現場に行くところの事前のサーベイをして、線量がどのぐらいあるからどうのこうのっていう計画を立てた仕事は1個もないんで。その時点では。行き当たりばったりでやってるような状況だったんで。
奥山:12日の朝に、そのタービン建屋に入るのは、怖いとかそういう感じはどうなんですか? 津波のほうが怖いっていう感じでした?

マサ:怖いっていうより、ぼく、一番最初に思ったのは、タービンの地下に行かなきゃいけないんで、水浸しただろうなっていう(笑)。中まで行けるの?みたいな。そっちが先っていうか。あんまりそのあと余震が来てとかなかったんですけど。でもさすがに現場に入りだしたときは、真っ暗だし、「これ、地下行って嫌だな」っていうのはね。何が理由とかじゃないですよね。そんなの嫌じゃないですか。建屋の中の真っ暗なところの階段下がってって、下は水浸しで。そんなの行けないですよね、気持ち悪くて。

 

【3月12日朝の時点で、1号機の原子炉は、非常用復水器による冷却が止まって炉内の水位が下がり、崩壊熱を発する核燃料が空気中に露出しつつある、と見られていた。しかし実際には前日の津波来襲の後、非常用復水器は機能しておらず、夜に炉心溶融が始まったとみられる。午後9時51分には原子炉建屋の放射線量が上昇していることが判明。午後11時にはタービン建屋内でも放射線量が上昇しており、1階北側の二重扉の前で毎時1.2ミリシーベルト(1200マイクロシーベルト)を測定した。

12日午前2時前には圧力容器を損傷し、溶融燃料が格納容器の下部に落下したとみられる。正門で測定した放射線量の値は午前4時時点で平常値の毎時0.06マイクロシーベルトだったが、午前4時40分にその10倍余となり、上昇を始めた。一方、2号機では、RCIC(原子炉隔離時冷却系)のポンプが動き続けていることが12日未明に確認され、原子炉内の水位も保たれていた。】

 

奥山:12日の朝に入ったときには、当時は1号機、2号機はどうなってると思ってました?

マサ:プラント自体が今どういう状況でっていうのは、何も考えてなかったですよね、いま思うと。

奥山:特に東電さんのほうから「こうだよ」っていうのを言われたりとかは。

マサ:情報とかはまったくないです。今、プラントの状況がこういう状況にあるとか、そういう話はまったくないです。やっぱり縦割りで、東電さんも役割が分かれてるんで、もしかしたらその情報を知らなかったのかもしれないし、東電さんの担当者自身は。

奥山:現場の線量が上がってるっていうことは情報としてはあったわけですよね。

マサ:そうです。だから11日の晩から全面マスクだよっていう話になってたんで。外に出るには全面マスクって話になってたんで、その時点では線量上がってるんだなっていうのはみんな常識的にはわかってるんで。

奥山:1号のタービン建屋の地下に入ったときに、たとえばDG(ディーゼル発電機)がある部屋とか、そういうのを見たりはしない?

マサ:しないです。その目的のところしか行ってないです。

奥山:部屋によって水の量って違うんですか?

マサ:そうですね。でもう、11日に津波があってから、12日の朝にはもう相当引いてるんで、もう実際。いったんはどの号機も、地下1階ぐらいは全部水浸しだよっていうところだったんですけど、12日の朝になった時点で、相当引いてるところがたくさんあって。

 

■12日朝、菅直人首相が福島第一原発来訪

 

【3月12日朝、菅直人首相、寺田学首相補佐官らがヘリコプターで東京・永田町の首相官邸から福島第一原発に飛来した。政府の原子力災害現地対策本部長として地元・大熊町にあるオフサイトセンターに入っていた池田元久・経済産業副大臣や東京電力の武藤栄副社長らの出迎えを受けた。免震重要棟に入り、吉田所長と会談した。東電事故調の報告書に添付された時系列によれば、午前7時11分に発電所に到着し、8時4分に出発した、とされている。】