福島第一原発事故 10年目で出て来た新事実 「フクシマ・フィフティー」のアナザーストーリー 第4回(インタビュアー│奥山俊宏、久田将義)

マサ:12日に菅直人が来たじゃないですか、原発に。あれも見掛けたんですけど。ぼくらがさっき言った汚染って言われるサーベイ受けてるときに、そこ通ったんです。そのときはまだ設備がちゃんとしてないんで、廊下でやってるんですよね、サーベイも。「現場から帰ってきた人、こっち来て!」と言われて。で、こうやってるうちに、菅直人が、団体さんがドーッと入ってきて。

奥山:それは消火ポンプのバッテリーをつなごうとして(余震で高台に戻ってきたときに)?

マサ:そうですそうです。それで帰ってきて。

奥山:帰ってきて、というときですね。6時とか7時とか。

マサ:そうです。帰ってきてサーベイ受けてるときに菅直人が。

奥山:免震棟の中に入ったところで、廊下の。

マサ:そうです。えらい怒ってましたよ。その時点ですっごい怒ってました。自分も外から入ってきたからサーベイ受けなきゃいけないじゃないですか。そこらへんで怒ってたんじゃないですかね。だって向こうのほうでも、ぼくらが通る、通りの向こうのほうで聞こえてましたもん。緊対室じゃなくて。緊対室は2階なんですけど、1階の段階で、向こうのほうで、「俺はこんなことしにきたんじゃないんだよ!」って(笑)。(ぼくらは)「ホント怒ってるよ、すごい!」みたいな。

奥山:免震棟入るときにみんな並んでるんですか。

マサ:はい。

奥山:その一番最後列に並ばされたらしいんですね(笑)。総理大臣が。

マサ:ぼくの前をスーッと通っていって、で、向こうのほうに行ったときに「こんなことやりに来たんじゃないんだよ!俺は」みたいな
声がして、(ぼくらは)「怒ってるよ、菅直人」「何しに来たんだよ」みたいな。

奥山:それ菅さんの声で?

マサ:たぶんそうでしょうね。

奥山:やっぱり。怒鳴ってばっかりとは言われてる。

マサ:なんかのニュースかなんかで、もともと「イラ菅」っていうのは聞いてたんで、「おお、やっぱりそうなんだ」と思って(笑)。

ボロボロになった建屋。

【東電事故調の報告書に添付された別紙2には次のように記載されている。
「免震重要棟入口で身体サーベイを担当していた保安班が,免震重要棟に入ってきた内閣総理大臣の身体サーベイを開始したところ,「何をしているのか」と質問された。身体サーベイしている旨を説明しても繰り返し同じ質問をされ,これ以上身体サーベイを続けられる雰囲気ではなかったため,身体サーベイを中止。全員を免震重要棟2階の会議室まで誘導した。」

このときの様子について、経済産業副大臣だった池田氏はのちに政府事故調の聴取に次のように振り返った。
「作業員の人が大勢いた。中には上半身裸というか、除染などの人だと思うのですが、大変だなと思ったのです。その前で菅は何と言ったかというと、何でおれがここに来たと思っているのだと言ったのです。これには私はあきれました。武藤や寺田に言うならまだしも、一般の人の前で、言ったので、イラ菅にしても今日はひど過ぎるなと思って。秘書官なんかもみんなびっくりしたと思うのだ。」

首相補佐官として菅首相に官邸から同行した寺田学衆院議員はこのときの様子について、のちに自分のブログの次のように書いている。
「総理が総理として扱われていない。重要免震棟入り口付近には人で溢れていた。肩と肩がぶつかる程の混雑。二重ドアを閉める為、背後から押されるように人混みの中へ。誰が自分たちを誘導しているのか全くわからず、総理一行は混雑する人に紛れてバラバラに。人混みの中の小さな流れを見つけ、それに任せて前に進む。奥には二列の行列。左の列に総理が並んでいた。右をみると、上半身裸の男性が、汗だくで床に寝そべっていた。息は荒い。列の先頭では、係員が機器を使って入場者の放射能を計っている。「おい、ここらへん高いぞ!」と私の近くで係員が叫ぶ。

いよいよ次が私、というところで、左にいた総理が「なんでこんなことしなくちゃいけないんだ」と列を離脱、誰かに誘導されて階段に向かう。急いで私も後を追う。階段に到達するも、そこも人だらけ。階段の壁には、びっしり人が立っていた。休むところがなく、壁にもたれて休んでいる様子。一様に目が疲れている。目の前に総理大臣がいることを気付くものは殆どいない。気付いても目で追う程度。急いで階段を駆け上がるが人混みで総理を見失う。二階にあがり、誰かの導きで会議室に到着したら総理と津村記者の二人だけがいた。」】

(次回に続く)
〈インタビュー@奥山俊宏(朝日新聞編集委員 文責@久田将義(TABLO編集長)〉

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