第一次被害で人命が失われていたかも知れなかった福島第一原発事故 「自分の呼吸音と周囲のアラーム音しかなかった」(爆発から逃げる作業員)
マサ:見てないです。見えたのは、自分たちが乗りつけた車がガレキでグジャグジャになってるのだけは見えたんです。そのときは3号は見なかったです。一目散に前だけ見て、坂を歩きましたね。
奥山:2号と3号のあいだを抜けて。
マサ:そう、免震棟側にずっと、とにかく行くしかない。免震棟に帰るしかないんで。そのときも、ぼくら含めて40人から50人ぐらいの人数いますから、2号と3号のあいだをみんなで走ってるんですけど、あちこちからみんな持ってるアラームが鳴ってて鳴っててすごいです、あっちもこっちも。
久田:ピーピー鳴ってるんですか。
マサ:そうです。その音しか記憶にないですね、音的なものは。あとは自分の呼吸音と。マスクしてるんで。自分の呼吸音とまわりのアラームの音しかない。
久田:他の皆さんのも鳴ってるわけですよね。
マサ:鳴ってたと思う、自分のはわかんないですけど。でも、マスクつけてそんなに走れないんで。30メートルちょっと、ガレキを越えたぐらいのところでみんな、「もう走れねぇ」みたいな感じで。あとは歩きましたけどね。それが14日ですね。俺、半日か1日かちょっとあれがあるんですけど。
奥山:ちょっと話は戻るんですが、2号のケーブルの接続は、ほぼでき上がってたわけですよね。
マサ:それはもう終わってました。終わって帰るときの話なんで。
奥山:実際に電気を通すっていうところまではしてなかった?
マサ:それは2号と3号のあいだに電源車を置いて中に引いてるんで、3号が爆発した時点で全然使えなくなっちゃった。やったことは全部無駄になっちゃった。
奥山:電源車も壊れた?
マサ:そうですね、あとから行って見たときには、電源車から建屋に引き入れたケーブルにガレキが突き刺さってて、とてもじゃないけど使える状況になってなかったです。だからミッション的には何も成果なしです。
奥山:3号機が爆発しなければ、2号機をその電気で救えてたかもしれないですね。
マサ:たぶんできたかもしれないです。
奥山:1号機の爆発で壊れたものを直したっていうことですよね。
マサ:ぼく、5日間で自分が行った現場で、成果はひとつもないんですよ。1回目は途中で帰ってきてるし、2回目は爆発でダメになっちゃうし。なんにもないです。
奥山:2号のディーゼル発電機がダメだったとか、あるいはバッテリーも直流電源もダメだったとか、そういうのは?
マサ:ないですないです、全然わかんないです。ぼくらは実際、なんの目的でこれをやってるのかは、あんまりよくわかってない。この電源を生かす、あれを調べてこいって言われたときに、それは何のため、何を目的としてやってるのかっていうのは説明されてないです。そんな時間もないというか。
奥山;2号のRCIC(原子炉隔離時冷却系)という炉に注水するポンプは、まったく制御のない状態だったんですけど、自然に動いてたらしいんですが、それは14日の爆発の前後ぐらいに止まったようなんですけれども、そのあたりは当時お話は聞いてました?
マサ:わかんないです。ホントにプラントの中の情報っていうのは、ひとつもわかってないんで、ぼくらは。
奥山:2号のタービン建屋の中にいて、爆発音を聞いたけれども、その衝撃、身体への振動があるわけではなかった。
マサ:ないです。ぼくらはもともと震災のような大きな地震があったとしても、どっかの事務所とかにいるよりは、建屋の中にいたほうが
安全だと思ってますんで、もともと。
奥山:そのあと走って逃げて、免震棟に戻られてっていうことになる?
マサ:そうです。14日の午後に戻って、その段階で、それ以上はもう仕事はなかったですね。
個人的には以下の表現、
「自分たちが乗りつけた車がガレキでグジャグジャになってるのだけは見えたんです。そのときは3号は見なかったです。一目散に前だけ見て、坂を歩きましたね」
この言葉にゾッとしたのを覚えています。え? それならもしかしたらまだ車に乗っていたら。瓦礫が皆さんに直撃していたら。そう思わずにはいられませんでした。で、あるなら第一次被害で犠牲者が出ていたのかも知れなかった訳です。さらに別日でこれについて聞いた話は以下のようなものでした。
久田:どの程度の衝撃でした?
マサ:1号機って、モノがちっちゃいし古いんで、ブローアウトも薄いんすよ、すごく。だからあんまり大きいドッシリした音じゃなくて、わりと軽い、パカーンみたいな音でいっちゃうんですけど、3号は違うんで。ホントに爆発です。ドカーンッていう。
久田:1号機はブローアウトだから?
マサ:3号も同じブローアウトなんですけど、でも、つくりがちょっと違うんで。3号のほうが全然重いんですよ。僕らは隣の2号にいて、その大物搬入口の隣がすぐ3号ですから。だから2号から出ていくタイミングがもし間違ってたら、これに当たってたんですけど、たまたま当たらなかったんで。