金嬉老事件をご存知か 「ライフル立てこもり事件」の寸又峡温泉は秘境化していた

宿の窓から見えた金嬉老事件現場。

緊急事態宣言もまん防もない、フルオープンのゴールデンウィーク、いかがお過ごしだったでしょうか?

僕自身は久々にGWの旅行を楽しんだ。ここ2年、あまり出かけずにインドアで過ごしていたのだが、そろそろパーっとどこかへ行くか、GWの半ばにそう思い立ち、出かけたのだ。向かったのは静岡県北東部に存在する温泉郷、寸又峡温泉だった。
ここは高度成長期を代表する金嬉老事件が起こった現場。書くネタを探して日々生きているせいか、こうしたプライベートな旅でも、自然とキナ臭い場所に足を向けてしまうのだ。

登山客ぐらいしか来なかった寸又峡に温泉が引かれたのは1962年(昭和37年)。それから6年後の1968年2月20日、金嬉老(当時39)はライフルと大量の銃弾、そして大量のダイナマイトを持って寸又峡のふじみや旅館に押し入り、宿の経営者と客の合計13人を人質にとって、立てこもった。事件は日本中に報道され、全国のお茶の間を釘付けにした。

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東京から一路西へ。新幹線に乗って静岡まで。そこから東海道線の普通列車で金谷駅。そこからは、大井川鐵道に乗って南アルプス方面へ北上していく。大井川を遡上するかのように鉄道はどんどんと北上していく。終点の千頭駅でバスに乗り換え、終点で降りるのだ。

受験生にとっては縁起の良い駅。隣には「門出駅」。

金谷駅に降りたったとき、僕は思った。大井川を遡るだけという、こんな中途半端な鉄道にいったい誰が乗るんだろう。お客さんはいるのだろうかと。

金谷駅到着。

すると、小さい子ども連れの親子が目立つではないか。昭和40年代の払い下げ車両を走らせたり、蒸気機関車を走らせたり、近年では機関車トーマスの列車を導入したり。アイディアによって子どもたちの心を鷲掴みにしているのだ。

1時間あまり鉄道に乗って千頭駅で降りてからはバスで寸又峡へ向かう。対向車線のない山の斜面に張り付くような狭い道。バスがガードレール側に傾きながら走ったりするなかなかスリリングな道。グーグルマップで地図やニュースを見ていると、突然、電波が圏外となってしまった。
バスの運転手さんは大忙し。ハンドルさばきを間違えれば奈落の底に逆さまに落ちてしまいそうな中、声を張り上げて、停留所の名前を一つ一つ読み上げたり、「今、下の方には吊り橋が見えます」とガイドまでやってしまったりするのだ。

お昼に東京を出発して、寸又峡の温泉街のバス停入口に着いたときは午後5時を回っていた。温泉街は派手なネオンはなく、コンパニオンも一切いない。運営しているのは地元民。コンビニエンスストアすらなく、お店といえば夕方に閉まるお土産屋を兼ねた食堂しかなかった。すれ違う観光客は、大井川鐵道のトーマス列車に乗ったついでにやってきた親子連れとか、温泉から歩いて40分のところにあるパワースポット“夢の吊り橋”目当てのカップルや女性同士といかにも金嬉老事件の事を知らなさそうな人ばかりだった。