ネット怪談の元祖にして代表格である「杉沢村伝説」について、今の若者はどれだけ知っているだろうか。
「かつて青森県にあった集落、杉沢村。そこでは昔、発狂した一人の青年が村人を皆殺しにするという事件が起こった。県は事件を隠蔽するため村の存在を地図から抹消。しかし今でも杉沢村は当時のまま山中に残っていて、そこを訪れる者は呪われてしまう......」
そんな伝説が、ちょうどインターネットの普及と足並みをそろえて、1990年代半ばから2000年初めにかけて大流行。杉沢村の存在を突き止めようと、2ちゃんねるを中心に様々な憶測が飛び交っていった。
メディアによって初めて杉沢村の場所が「特定」されたのは、『ダークサイドJAPAN』創刊号(2000年8月発行)におけるルポによってだった。この記事を読むと、当時の杉沢村(とされていた廃集落)は、細いあぜ道や山道を通った、無人の山中にひっそりと残されていたことが分かる。そんな秘境の集落跡だからこそ、恐怖の村のモデルとなり、一連の伝説も生まれていったのだろう。
さて、それから13年もの月日が流れた現在。問題の場所はどうなっているだろうか。青森駅から車を走らせ、もうすっかり住所も割れている「杉沢村」へと向かってみた。すでに伝説は解明されているとはいえ、やはり一抹の恐怖はつきまとう。
(ノーマルタイヤで来ちゃったけど、万年雪の山奥だったら、スリップして死ぬかも......)
(いくら怪談が嘘でも、気の狂った殺人鬼の一人位はいて、死ぬかも......)
......しかしいくら走れど建物は途切れず、道路はキチンと舗装されたまま。カーナビによれば、だいぶ目的地も近くなっている。いつになったら秘境っぽくなるんだろう、と思った瞬間。
「あった!」
杉沢村の目印である鳥居を、道路沿いにて普通に発見! しかも鳥居前には駐車できるスペースがあり、地元民の車が一台停まっていた(山菜採りに来ていた老夫婦らしい)。鳥居の奥に入ってみれば、木々が切り開かれたスペースが広がり、明らかに大規模な工事がなされている。昔の建物も多少残っているが、山道はそれなりに広くて歩きやすいし、空き地には粗大ゴミが沢山捨ててある。このロマンの無さは、いったいなんだろう......。
どうやらこの周辺にて、2000年代半ばから民間の処理施設が建設されたようだ。そのため道路も整備され、山の中もだいぶ切り開かれてしまった。かつて日本中を騒がせたオカルトスポットは、今では交通の便もよい、地元民の山菜採りスポットとなっていたのだ。
一抹の寂しさをひきずりながら東京に帰った僕。しかしその後なにげなく調べてみたところ、気になる点が一つあった。あの杉沢村を開発した施設である(株)青森下水道開発センターは、産業廃棄物の不法投棄で'06年に事業停止処分を受けていたのだ。さらに、その後を引き継いだ(株)青森汚泥処理センターも資金難から'08年に倒産。その後、裁判所が土地を管理し、入札も行われたようだが、現在の所有者がどうなっているのかは不明だ。
これはもしや、杉沢村に手をつけたことによる呪い......? この土地から生まれた伝説を葬ったことによる、なにがしかの報復がなされたのでは......などと、不謹慎ながら思ってしまったのである。ちなみに、この施設は市のし尿処理を請け負っていたので、青森市民のトイレ事情にも影響を及ぼしているかもしれない。もし今後、青森市にて「処理が追いつかないので、あまりトイレの使用を控えて下さい」といった通達が市民に流れたら、我々はこう思ってしまうだろう。「杉沢村伝説は、まだ生きている」、と。
Written Photo by 吉田悠軌
この記事を読んでいる人はこんな記事を読んでいます
●【放送禁止】画像で検証「NHKあまちゃん」元ネタの封印された3本のアイドル映画
●日本の原始民?幻の漂泊民? サンカの秘密に改めて迫る
●ローラをも襲ったアノ飲料水『桃の天然水』 過去には失踪したアイドルも......