いま「避妊具自販機」って激減してる? 既に“大人になっていた”平成を振り返ってみた|中川淳一郎

「あ、こんばんは。お久しぶりですね」とYは言った。

僕らはグデングデンに酔っ払っていたので「あ~、Y君、ごめんね~、うるさくしちゃってさ~」なんてハイテンションでYに絡んだ。こたつを囲み3人で30分ほど喋っていたのだが、Yは「明日、僕早いのでそろそろ寝ますね」と言った。僕と智子はこたつで2人してしばらく喋っていたのだが、ふとこたつの中で足が当たった。

これが一つのスイッチとなったのだろう。部屋の電灯のスイッチを切り、僕たちはYとは反対側の壁際にある布団に向かい、接吻をした。あそこの一物はすでに完全怒張しており、智子も「当たってるね」なんて笑ってくれた。そしていよいよ服をぬぎかけたところで智子は「待って」と制止した。一番いいタイミングで何を言い出すのだ、と思ったが智子は一言だけいった。

「コンドーム持ってる?」

「持ってない」

「ゴメン、買ってきてくれないかな」

「分かった」

僕はすぐにリーバイスのGジャンを身につけ、春とはいえまだ寒さが残る東大駒場キャンパスの中を突き抜け、裏門を出てエロ本の自販機を目指した。エロ本の自販機がある場所ならば避妊具の自販機もあるのでは、と思ったのだ。しかし、その目論見ははずれた。コンビニに行けばいいじゃないか、と今の時代の人ならば思うかもしれないが、当時はコンビニの軒数も少なく、なかなか見つからなかったのである。そもそもコンビニにそんなものが売っているとは知らなかった。だから自販機を探さざるを得なかった。だが、エロ本自販機の脇には避妊具自販機はなかった。それもそうか。自分一人のためのエロ本だから避妊具は不要である。アテがはずれた僕は脱兎のごとく渋谷方面に向け、山手通りを走り始めた。

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当時入っていた登山部では、もっとも長距離走が速かった僕は、周囲を見回しながら自販機を探し、走り続けた。ついに松見坂まで来てしまった。もはやここまで来ると最寄り駅は池尻大橋になってしまう。1km以上は走っているだろう。それなのにまだ見つからない。自販機は住宅地の近くにあるはずだ、という勘が働き、人気のあまりないエリアに向かって走り始めた。真剣に走るものの、頭の中で考えていることは、先ほど生で触った智子の胸と酒とタバコの香りがする口のいやらしい匂いだった。それを想像するだにあそこが再び硬度9の状態になり、走りづらくてたまらない。