沢木耕太郎によって傷付けられた石原慎太郎 『水道橋博士×町山智浩 がメッタ斬りトーク』(6)

(前回より)
石原、猪瀬、青山、生島、落合…60歳超えてケンカ自慢するおじさん 『水道橋博士×町山智浩 がメッタ斬りトーク』(5) | TABLO

 

「(石原慎太郎は)今度会ったら」じゃなくて。今から殴りにいけばいいじゃん。ASKAみたいに」(町山智浩)

博士:書評家の豊崎由美さんと評論家の栗原裕一郎が、『石原慎太郎を読む』っていう本で、慎太郎をさんざんからかったのね。ボクもその読書会、紀伊国屋で一度、出席しているんだけど、彼らは慎太郎の作家として良い部分は良いってことを本に正直に書いたのね、あの時、発売日に出版元の原書房に慎太郎が電話してきて、「よく書いてくれた!」って二人に面会を希望するんですよ。
もちろん、二人も最初は逃げてたけど、最終的には実現して、それを『婦人公論』に掲載する。これらの一連はね、人たらしですよ。
でも、文を知る人は文で交流しますよ。俺も一時期は石原慎太郎にものすごい認められたし。東さんが都知事に立候補するまでは……。
ずっと周りには威張りながら、俺を見たら「文章書いてるかお前! お前! 才能あるんだから!」ってずーっと言い続けてた。最終的に、俺の芸名は覚えてなかったけど(笑)。二人称は必ず「お前」だから(笑)

町山:僕は慎太郎に会った時、「なぜ政治家になったのか?」という質問に「自己を表現するため」って答えたの。彼、作家なんですよ。実は。政治家になったのも、表現としてやってた。そんな個人の自己実現のために世の中が踊らされるのはバカげてる。彼に投票してる人たちは気づいてないけど。
本人が自分のために政治してるって言ってるんだもん。人々のためじゃなくてね。彼は、偉い人、優秀な人間は、自己を表現することによって世界を幸せにできると思い込んでるんですよ。
でも、本質的には表現者だから、作品について聞いたほうが喜ぶの。石原慎太郎に投票する人は本当に作品を読んでないからねえ。ちゃんと読んでたら投票しないと思います、はい。

博士:ははは。理屈的にはね。

町山:投票できないですよ。だって「弱い奴は死ね!」って思想が書いてあるもん。

博士:「狼は生きろ、豚は死ね!」ってね。

町山:俺は小説について話したら喜ばれたよ。『処刑の部屋』とか読むと、弱い人間が強さにあこがれるコンプレックスだけで書かれているし。いちばん面白いなと思うのは、映画の観点から言うと、『狂った果実』なんですよ。

博士:日活の『狂った果実』、裕次郎が初主演で出たやつね。

町山:『狂った果実』は兄弟の話なんですよ。兄弟の話で、1人はスポーツマンで女の子にモテる。1人はうじうじした内向的な文学青年。弟は、兄貴に対してコンプレックスを持っていて、女の子も、兄貴の彼女が欲しいわけですよ。ていう話なんですよ。『狂った果実』って。自分と弟の関係を、兄弟ひっくり返してるんですよ。

博士:それは、本人が告白しているし、すぐに分かる。

町山:実は慎太郎自身には、モテない方の内向的な自分があったんですよ。そのコンプレックスで書いたのが『狂った果実』。それを1956年に中平康監督が映画化した『狂った果実』はフランスで見られて、ヌーヴェル・ヴァーグの映画作家たちに強烈な影響を残した。
まず、クロード・シャブロル監督が『いとこ同志』(59年)を撮る。モテる青年と内向的な青年の関係をいとこ同士にした話。
次に、『狂った果実』を絶賛していたフランソワ・トリュフォーが『突然炎のごとく』(62年)を撮る。これは実話の映画化だけど、うじうじしたもてないドイツ人と、軽くてモテるフランス人と、その間に挟まれた女性の話で、明らかに『狂った果実』の影響を受けている。
さらに、JLゴダールの『はなればなれに』(64年)も、内向的な男と、もてる男と、間で1人の女性っていう三角関係を描いていて、つまり、石原慎太郎は間接的に、ヌーヴェル・ヴァーグに大きな影響を与えている。
しかも、そのヌーヴェル・ヴァーグから60年代後半のアメリカン・ニューシネマが始まるんだから、世界の映画史は石原慎太郎によって始まっている。本人に自覚ないだろうけど。
で、その『狂った果実』を監督した中平康の娘さんに、猪瀬さんは振られている。

博士:中平まみだっけ。『ストレイ・シープ』の。『週刊文春』は、その話、すごい昔の話なのに、最近また(猪瀬直樹とのドライブデート中の)交通事故のこと蒸し返して書いてたね。林真理子さんが、ヒドイって怒ってた。

町山:シークレットブーツのことまで書いてました。

博士:『ポランスキーも小男(チビ)だけど』って短編小説ね。でも、俺、猪瀬さんのシークレットブーツとか、もう何枚も撮ってますよ写真を。一緒に共演したら、必ず、そこを撮っているの。

町山:そのブーツ、電話かもしれないよ。「それ行けスマート」みたいな。このギャグ、ご年配の方だけ笑ってますね、はい。