ホームレス記事はなぜ炎上したのか 取材に欠けていた「当事者性」|久田将義

「エッセイ」というカテゴリーで批判をかわしているかのように見えるのは僕だけでしょうか。「3年間取材し続けたら」という文言がタイトルに入っていますね。もちろん、コラムもエッセイも取材は必要ですから、この「取材」に対して特にケチをつけるつもりはないのですが、ちゃんとしたコラムニストはかなり、現場に行き取材しています。アウトプットの文体がコラムになっているに過ぎないのです。取材は取材です。問題は取材の中身です。

エッセイだから「取材が甘くても良い」ともしライター、運営が考えているのであればそれは違っているでしょう。

こういったホームレスや街の変わった人に取材する際は、まず懐に飛び込んでいく事が大事です。僕は僭越ながら「ワニマガジン社」時代に1人でムックを編集していた際、ライターに池袋のホームレス集団に潜入してもらい、彼ら生態や生の言葉をリポートしてもらいました。

また「実話ナックルズ」編集長時代には、新潟の生ける伝説「あげまん慶子さん」という女性に突撃取材しました。「慶子」さんは新潟のキャバ嬢の間では有名で、変人扱いされている方。「あげまん慶子です。携帯番号〇〇●●。私は神の力を持っています。私と遊べば運気があがります」(要するにフリーの立ちんぼだったのです)。といった主旨の文言を掲載したお手製のビラを制作していて、周囲からはバカにされていました。しかし、慶子さんの行きつけのバーの店主の話では印象は真逆。「あいつはいい奴ですよ。少し変だけど(笑)」と言ったものでした。詳細は「実話ナックルズ」か「ダークサイドJAPAN」(ともに大洋図書)に掲載してあります。

そして、さらに取材すると慶子さんの生い立ちが不幸なのが分かりました。だからこういった「あげまん慶子」に、変身し男性に運を与え続けているのか、と悟ったものでした。世間で笑われている彼女とは違った、可哀そうな経歴でした。これは書く側の情けとプライバシーの侵害から、掲載せずに僕の胸にしまっておきました。

慶子さんやホームレスのような人たち。「cakes」のライターさんがこわごわ見てみたり「私たちとは別世界」「たくましく生きているのに勉強になった」といったような事しか書けない。キツイ言い方をすればキレイ事では済まないのが現実の世界です。

当事者性。当事者は取材者はなれません。けれど当事者に近づく努力は必要です。そこで少しでも、読者に当事者の声や思いや人生が伝われば良い。そういう思いで恐らくノンフィクションライター達は、仕事をしているはずです。ちなみ「慶子さん」の記事は匿名で書いたのですが、元祖ルポライター竹中労の弟分もと言うべきルポライターであり僕の心の師である朝倉喬司さんからほめられたのは今でも嬉しく思っています。

関連記事:「この人」が存命だったらどんな政権批判をしていたのか 竹中労の伝説 権力に本気で牙をむいた反体制ルポライター | TABLO