福島第一原発事故 10年目で出て来た新事実 「フクシマ・フィフティー」のアナザーストーリー 第5回(インタビュアー│奥山俊宏、久田将義)

同原発から5キロ離れた大熊町役場では、東京新聞の『レベル7』によれば、鈴木久友・総務課長が「パーン」という乾いた音に思わず振り返ったという。
ジャーナリストの烏賀陽弘道氏らの取材に応じた井戸川克隆・双葉町長(当時)の話によれば、井戸川氏は双葉町役場で「ズン」という鈍い音を聞いたという。役場は1号機から北北西に3.4キロほど離れた場所にある。井戸川氏の話によれば、「数分して、断熱材(グラスファイバー)のような破片がぼたん雪のように降ってきた」という。】

マサ:あの日、けっこう風は吹いてるんで。北風か北西の風だったんで、たぶんあっち側には。

奥山:音については生で聞いた人はほとんどいない。

マサ:じつは軽かったんです。そんなに「すごい」っていう感じじゃなかった。

奥山:それは貴重なお話ですねぇ。

マサ:その音を聞いてビックリするとか、もうヤベえとか、ドキドキするとかっていう感じじゃなくて。その音があったおかげで、すぐ「ブローアウト」っていう話があって、「バス出せ、バス出せ!」って話になっちゃったんで、ぼくらは何もないですよね、流れに任せてるというか、それしかないんで。

奥山:で、2Fに行った。

マサ:それで2Fまで行ったんですけど、2Fの正門で、入れてくれないんですよ。また保安の人が話をしにいって、いろいろ話してるんですけど、入れてもらえない。とりあえず、ここで待機。正門の前のところで待機。で、誰かが「トイレ行きたい」とか、「外に出ても大丈夫?」って言っても、「いやいや、出ないでください」。出れない。で、そこにいるしかなくて。でもその時間は2、30分かな。3、40分かな、それぐらいしてから、その人がまた連絡を取って、「戻れるようです」という話になって、で、1F(福島第一原発)に引き返したんです。

奥山:なら2Fには入らずにですか。

マサ:入れない。入れてもらえなかったんです。

奥山:入れてもらえない理由っていうのは?

マサ:たぶん、ぼくらの汚染のオーダーっていうのは、それを広げるわけにはいかないので。たぶんバスの中だけで収めておきたいっていうことだと思うんですよ。ぼくらはオーダーとかも聞かされてないんですよ。どの程度っていうのを聞かされてないんで。だからぼくらはその状況でも隔離の状況にあって、外にも出ちゃダメだっていう。汚染を広げさせられない状況の中の、たぶんその15~16人です。みんな同じ状況。でもう、そのまま1Fに帰るしかなくて。1Fに戻ってからは、もう1回またその部屋に戻されて。

奥山:最初に隔離された部屋に?

マサ:そうです。部屋に戻されて、その晩は何もないですね、そのまま隔離状態。

奥山:11日の夜も12日の夜も泊まったわけですね。15日朝までずっといたわけですね。

マサ:ずっといました。

奥山:その晩、12日の夜はそこで泊まられて、13日は……。

マサ:で、13日の朝になって、「このまま俺らこうしててもしょうがないから、ちょっと東電と掛け合おう」と。このままじゃ、ここにいてもしょうがないんで、「今どういう状況なの? 自分たちの仲間のいるところに戻りたい」と。でもう、そのときには、これはまた想像なんですけど、ぼくらが汚染してるオーダーよりも全然上がってきちゃって、もうどうでもよくなった感じなんですよね。11日までは、「こいつらすごいヤバい」っていうのが、逆に環境のほうがヤバくなってきちゃって、「もうこいつらかまってらんないよ」みたいな感じになって、13日の午前中の9時か10時ぐらいに話をして、1時間ぐらいたってからは「もういいです、戻ってください」って言われました、何もなく。

昨年撮影。福島第一原発内の桜。

福島第一原発構内では12日昼ごろから平常値の千倍に相当する時間あたり数十マイクロシーベルトの放射線量を測定するようになり、13日にはそれが恒常化し、数百マイクロシーベルトの線量を測定することも増えていた。

奥山:戻るのは、事務所に。

マサ:事務所っていうか、免震棟の中の会議室に。みんな仲間がいるところに戻っていいですっていうことで。

久田:そこにかたまって、そこからはみんな出てこないんですか?

マサ:その免震重要棟の緊急対策室には常時、人はいるんですけど、出入りとか自由ですし、何も制約とかはないです。

久田:吉田さんもそこにいたんですか?

マサ:吉田さんも当然いますし。吉田さんはタバコ吸う人なんで。で、その緊対室ではタバコ吸えないんで、で、そのときには喫煙室があったのかな?ひと部屋だけ。そこに来てタバコとか吸ってましたし、吉田さんも。

久田:深刻な感じでした?

マサ:いやぁ、言葉は発してないですね。何も言ってないです。

久田:一応、現場監督は吉田さんになるわけですよね。
マサ:そうですねぇ。ただ、情報としては1から6号機まで全部の情報をひとつに集めて、そのプラントごとの対策を練ってどうこうしようと思ったら、無理ですよね。吉田さん一人がいくら所長で頭にいるからといって、全部判断できるわけじゃないし。

久田:東電の本店には、それは上がってるわけですよね。

マサ:緊対室はテレビ会議とかできるシステムができてるんで。

(次回に続く)

〈インタビュー@奥山俊宏(朝日新聞編集委員 文責@久田将義(TABLO編集長)〉

 

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