能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第1回

能町さん リモートだから、ってことですね。

齋藤先生 通常はだいたい4時過ぎです。

能町さん そこから、どのくらいで終わるんですか?

齋藤先生 2時間ちょっとです。私自身、自分がやりたかった稽古をやってもらってるつもりなんです。私も現役時代に自分がもうやめたいと思ったら終わりたかったし、毎日毎日やりたくなかったですし。

能町さん 稽古内容は、三番稽古(※1)とか、申し合い(※2)みたいな感じのものもあるんですか?

齋藤先生 ありますよ、日によって。

能町さん 土俵上で取り組む稽古があり、その他は皆が自主的な形でやりたいことややるべきことを探しながらやってるような感じですね。

齋藤先生 そうです。ただウチのぶつかり稽古(※3)は特殊かもしれないです。ご覧になった事はあると思うんですけど、ぶつかり稽古って稽古の仕上げで、キツくなるものだし、最後に1回だけやるのが普通だと思います。ウチは相撲を取り終わった後、軽いのをスススッと押したり、頭つけたまま押したり、離れて押したり、2回も3回もやっています。
1年生にも言ってるんですけど、1年生ってどうしても稽古を「させられる」という感覚を持ちやすいんですよ。「1週間に3回ぐらいでいいからぶつかり稽古を、これ以上できないところまでいかなくて良いから、その一歩手前で、キツかったら休んで良いからやりなさい。それを積み重ねていくと強くなるから」というように言っています。やらされると「どうしたら楽できるか」を考えるんですけど、ギリギリの手前でやめて良いよって言われると、何とか頑張ろうかなって気持ちになるんです。

能町さん ぶつかり稽古、見たいですね。

齋藤先生 是非。あと、他の大学と違うのは、ウチは今年の4月から、雑用や洗濯や掃除は基本的に3年生、4年生がやっています。食事当番も基本的に3年生がやります。

能町さん そうですか! へぇーっ!! それはどういう考えで?

齋藤先生 ラグビーでそういう学校があって、成績残してるって聞いて(註・帝京大学ラグビー部が有名)。特に1年生が入ってきた時に、普通はまず新しい環境に慣れなきゃいけないですよね。先輩の世話や雑用をしなければいけないし授業に出なきければいけない、となると、強くなろうという気がなくなっちゃうんですよ。生きていくのに必死で。

能町さん なるほど! それはすごく斬新ですねえ。考えたこともなかった。

 

●ビデオ導入が技術の向上を助ける

齋藤先生 去年もウチは強かったんですけど、それこそ学生横綱も出たし、アマチュア横綱も出ました。(学生横綱を決める)全国学生相撲選手権大会も(アマチュア横綱を決める)全日本相撲選手権大会も、優勝しただけじゃなくてベスト8に4人ずつウチの学生が残っていたんです。
なおかつ、開催されたリーグ戦とかほとんど勝ったんですけど、全国学生相撲選手権大会の団体で負けたんですよ。何で負けたんだろう、もっと変えられることがあるかなと考えた末に、自分が相撲を取っているシーンが10秒遅れで流れるモニターを相撲場に3つ付けました。

能町さん すごいですね! 3つあるというのは、カメラの角度が違うんですか?

齋藤先生 いや、土俵が3つあるからです。センスがある人は、自分が思うとおりに体が動いている人なんですよ。自分が理想としている体の使い方、動きができて、後はパワーさえ備われば相撲って強くなるんです。だから自分はどういうふうに体を使ってるのか、客観的に見てもらう。人間って自分は上手く体を動かしてるつもりでも、実際は動かせていないケースが往々にしてあります。また、どういう相撲を取ったかを、直後に確認して指導することもできます。

能町さん それは大相撲でも見たことがあって。モニタがあるわけではないんですけど、荒磯親方(元横綱稀勢の里)がiPadで稽古の取組を撮っては本人に見せながら「ここはこうで……」って説明されてました。

齋藤先生 ウチも昔それやってたんですよ。それじゃ、ダメです。

能町さん ダメですか!?

齋藤先生 iPadだと、たとえば土俵が3つあったら、私はひとつずつ指導できないんですよ。タイムラグが生じる。鉄は熱いうちに打てじゃないけど、すぐ(自分で)見たほうがいいです。ウチのこれ見たら、絶対導入しますよ、あの人は頭柔らかいから。いちいち見せる必要ないんですよ。

能町さん なるほど、なるほど。今の動きをすぐに自分で見る、と。

齋藤先生 そうです、すぐやって自分ですぐ改良しなきゃいけない。ウチが土俵を3つ作り出してから、(ほかの大学相撲部でも)2つずつ作るのが普通になってきましたからね。私はホントは5つぐらい欲しかったんですけど、大学がどうしても……まあ3つもすごいんですけど(笑)。

能町さん スペースの問題もありますしね(笑)。

齋藤先生 でも、5つぐらいあったほうが良いんです。稽古時間を短くしたかったので。人間の集中力ってそんなに続かないです、私が続かないんで。稽古4時間なんて大学もあるけけど、4時間もやって何をどうやって教えるの?と思って(苦笑)。

能町さん 大相撲の部屋の稽古を見ていても、土俵が1面しかないと、壁際で何もしようがない子はどうしてもたくさん生まれますよね。ずっと同じ人がやっていると疲れてきて、だんだん立ち合いが弱くなってきたりするのも見ます。

齋藤先生 大相撲の稽古スタイルは、強くなる人は強くなれるんですよ、土俵を独占出来るから。でも、相対的に見た時にはダメな人がいっぱい出てくる訳です。大学は4年と限られてる中で、なおかつ彼らはお金を払って来てくれています。強い人が自分の才能を引き出してもらうっていうことでは、私はそのやり方はダメだと思う。皆に強くなってもらいたいんですよね。
実際、今年の東日本体重別選手権で、一番下が65キロ未満から、75キロ未満、85キロ未満、100キロ未満、115キロ未満、135キロ未満、135キロ以上、無差別って8階級あるんですよ。8階級中、うちは6階級獲りました。

能町さん すごい!

齋藤先生 過去48回の歴史で、6階級獲ったのはウチだけです。預かっている子に相対的に強くなってもらうのは大事なんです。

能町さん そうなると、新しい子がどんどん日体大を目指して来ますよね。