能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第1回

齋藤先生 いや、完全オフは週に1回です。トップクラスの子は相撲取ったら次の日は取らない。だから大相撲とは違います。大相撲の人には「そんなの甘い」って言われるかもしれないけど、今はそれでいいのかなと思っています。なぜそうしているかというと、例えば大学なんかでも、1日50番、100番稽古するっていうところはあるんですよ。でも、私もそうだったんですけど、50番取る人は最初の1番から本気でやらないんですよ。マラソンランナーも最初から本気で走らないじゃないですか。だから50番取れる稽古しかしないんですよ。

能町さん なるほど。

齋藤先生 それよりも本気になって相撲を取ってもらって、自分で良いと思ったら終わってもらうようなスタイルを取っているんです。今日なんかは、割と今日に稽古を合わせているから、相撲を取らない子は少ないと思うんですが、でも普段だったら10人ぐらい「今日はできません」と言ってくる。それでいいんですよ。私が学生に言ってるのは、「私も神様じゃないし、君たちの体を君たち以上に分かる子はいないから、自分ができないと思ったらやらなくていい。代わりにできることをやりなさい」と言っています。

能町さん 部として全体が休んでるというわけではなくて、個人個人で上手く調整するというか。

齋藤先生 大相撲の記事を見ても、「何々関は誰を相手に20番取りました」とか書いてあって、数が増えれば良いのかなと思うかもしれないですけど、YouTubeなんかで稽古を観ると、こんな稽古でいいのかなと感じる人もいっぱいいると思います。

能町さん 大相撲だと「あいつは稽古が嫌いだから」みたいなことを言われる人もいますけど、それは本人の中では納得いく形でやってる可能性もありますか?そういう力士が増えてきたんですかね。

齋藤先生 そこは分からないですけど。とにかく、私は大学相撲の監督として見た時に、私自身もそうだったんですけど、ゴールが見えないと本気で走らないんです。相撲の稽古って、例えば幕下以下なんかだといつ終わりになるか自分で決められないんですよ。ずっとやっていて、親方が「いいよ」って言ったら兄弟子が出てきて終わるような形じゃないですか。
ウチは自分で終わりたいと思ったら終わっていいよって言っているんです。基本的には自分でゴールを決める。試合前とかは、「今はちょっと休んでもう少し頑張れ」みたいな言い方をしますけど、基本的にはどんな子も「先生、もう終わります」「はいどうぞ」です。自分でゴールを決められるから、そこまでは本気で走れますよね。そういう発想です。

アマチュア相撲・学生相撲で輝かしい戦績を残した齊藤先生。

能町さん 今、活躍してる花田さんとか中村さんとか、ああいう選手は「よく稽古する」と監督はおっしゃってましたが、先生としてはどういうことを「よく稽古する」というふうに思っていらっしゃるんですか?

齋藤先生 今日、後で稽古を見てもらうとわかると思いますけど、ずっと体動かしてますよ。あと花田はおそらく朝から坂道ダッシュとかやっていたと思います。

能町さん なるほど。みなさん、寮住まいなんですよね?

齋藤先生 そうです。ここから自転車で10~15分ですね。

能町さん 普段は何時ぐらいに集まるんですか?

齋藤先生 いまはコロナ禍なので別ですけど、普段だったらこの時間(註・取材時は昼過ぎ)はもちろん稽古できないです。学生で、授業中なので。

能町さん ああ、そうですよね。

齋藤先生 今日は何でこの時間にできるかというと、今は常に対面授業してるわけではないので、みんなの2限が授業がなかったのでやっています。