能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第1回

日体大相撲部齋藤一雄監督(左)と能町みね子さん。

2021年11月14日に大相撲九州場所が始まりました。コロナ禍、日常が失われつつある中、テレビやネットを付ければ大相撲が見られる幸せみたいなものを感じる人もいたのではないでしょうか。そういう意味で相撲は国技と言えるでしょう。今回は好角家として著名な文筆家能町みね子さんと日本体育大学相撲部監督で相撲論を研究している齋藤一雄教授に、その相撲の魅力について対談して頂きました。数回にわたって掲載していきます。

――齊藤先生は日本体育大学(以下・日体大)相撲部の監督ですが、かつてはアマチュア相撲の横綱として活躍。現在は日体大の教授としても相撲を研究されています。
大学相撲部監督として相撲部の活動について、また、研究者として相撲の技術や大相撲全般について、色々伺いたいなと思っています。最終的に、相撲はこう見たらもっと面白いんだよ、みたいなことが読者に伝われば良いなと思っています。

齋藤一雄先生(以下・齋藤先生) 私も分からないことはいっぱいあるんで(苦笑)。

 

 第1回★日本体育大学の相撲部

 

●相撲は力比べではない~日体大出身の大相撲の力士たち

能町みね子さん(以下・能町さん) 日体大から来た大相撲の力士って、押し相撲が多いイメージがあります。それは先生の教え方なんですか?

齋藤先生 学生時代は基本的に押し相撲を教えてます。まわしを取ったあとの技術はいっぱいあるんですよ。でも、そこで焦ってしまうと結果を残すのは難しいなと考えています。今はわりと高校時代に実績がある子も入って来てくれているんですけど、そういう子が少なかった時代は……。

能町さん 押しのほうが伸ばしやすい。

齋藤先生 相撲というのは、四つに組んで力の出し合いというイメージがあると思うんですけど、私の相撲理論は違っていて、強い人は「相手に相撲を取らせない」人です。朝青龍関(元横綱)も、まわしを先に取らせないし、いつも自分の得意な形で相撲を取っていました。白鵬関(元横綱。現・間垣親方)も強かった時代はほとんど同じなんですよ。だから「力比べ」ではなくて、いかに相手の力を出させないかということが大切なんです。
その、「力を出させない」を考えると、四つ相撲でそれを覚えるのは非常に大変なんです。4年間という限られた時間の中で押し相撲はわりと教えることが出来ると思っていますし、そのあとプロに行くとしても、押し相撲が取れれば。四つ相撲は(その後)時間をかければ覚えられるものです。その代わり四つ相撲をやっていた人が押し相撲に特化するのはまず無理です。

能町さん 確かに、押しの人が押す力が弱くなって四つ相撲になるパターンはたくさんありますけど、逆は見ないですね。日体大出身のお相撲さんは、嘉風関(元関脇。現・中村親方。平成16年卒)なんかもそうですが、高校ぐらいまではそこまでの実績じゃないような人を伸ばしていくようなイメージがあります。

齋藤先生 そう言って頂くと有難いですね。千代大龍(平成23年卒)なんかも、今はちょっと伸び悩んでいますけど、そういう感じの子でしたね。ウチは正直、一流校ではなかったんです。たとえば日本大学みたいな強い大学というのは卒業生が埼玉栄高校や鳥取城北高校、熊本の文徳高校の指導者になっていたり。全国に名だたる指導者がいっぱいいたんです。
でも人間、才能の有る無しも本気になったら大して変わらないと思っています。本気になってくれる子やまだ原石の子を預かることができると、結果を残せることもあると思っています。
今、うちにいる子で将来大関、横綱になれるのではないかという選手は2人います。花田(秀虎選手。2年生。第99回全国相撲選手権個人戦準優勝)と中村(泰輝選手。3年生。第97回全国学生相撲選手権大会個人戦優勝)という子です。この2人はホントに強いですよ。

能町さん うわーっ、それは楽しみですね。

齋藤先生 稽古に取り組む姿勢も、今の子はアスリートですね。

能町さん 体のどこがどうなってるか把握しながら?

齋藤先生 相撲という枠から出ているのかも知れません。大谷翔平選手の影響もあるかも知れませんが、一生懸命ウェイトトレーニングをやったり。昔だったら「ウェイトトレーニングやるな」「もっと投げ込め」「もっと走れ」とか、そういう理論が普通だったし、「喝!」ってやっていた人もいますし(苦笑)、それはそれでよかったのかもしれません。が、今は時代が違うんで、多くの情報が入ってきてるから、色んなトレーニング方法をやってます。

能町さん プロ(大相撲)はどうしても、まず「四股、鉄砲、すり足をしろ」から始まり、ウェイトトレーニングはそういうことやってから余裕があればやれ、という指導方針のイメージがあります。そのへんを自分でバランス取って考えてやれる人が増えてきたっていうことですかね。

齋藤先生 四股も鉄砲もすり足も大事です。確かに筋肉が増えたときに根っこであり幹であるのは四股とか鉄砲とかすり足とかぶつかり稽古。これが基本。相撲に適した体の使い方というのは相撲の伝統的な稽古を用いることが非常に大切だと思うんですけど。

能町さん 染み込ませなきゃいけない。

齋藤先生 そうですね、習慣ですね。そういう体の使い方を覚えて、枝葉に関してはウェイトトレーニングをやってもらったほうが、単純な筋肉をつけるのであれば非常に有効ですね。

 

●アスリートとしての力士

能町さん 私は大学相撲に関しては全然詳しくなくて恐縮ですが、普段はどんな感じで稽古のプランニングをされてるんですか?

齋藤先生 普通の大学は1週間のうち6日間稽古すると思うんですけど、ウチはやって休んで、やって休んでみたいな感じです。

能町さん そうですか! 休む日はホントに休みなんですか?