『児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律』いわゆる児ポ法の改正案が、細かな修正点を加えた上で、単純所持禁止という事になりそうだ。
最も大きな論点とされてしまった「マンガ・アニメなど二次元創作物は含むのか?」という点については、児ポ法に限っては創作物は含まずで落ち着きそうだが、それでも本来の最重要課題(のはず)であった「ゾーニングの意味不明さを残したまま、単純所持を禁じられてたまるか」 という点については完敗と言うよりほかない結果となってしまう。
こうした新児ポ法の解説は、すでに渋井哲也氏が記事をアップしてくださっているのでそれをご参照いただくとして、ここでは実際にジュニアアイドルのイメージビデオ撮影などを請けたことのある身として、より下世話かつ具体的な解説を行いたい。
※まずはこの基本情報からお読み下さい
『児童ポルノ規制強化で揺れるアニメ・漫画・CGの立ち位置 by渋井哲也』
http://tablo.jp/case/society/news001517.html
さて、ここから先はとある目的のために、とても簡単な日本語しか使いません。読むひとによってはいい加減に感じてしまうかもしれませんが、なぜそのような書き方をする必要があるのかは読み進めればわかると思います。
[何が児童ポルノになるの?]
洋服や水着などを着たり、裸になったりして、男の子や女の子の大事な部分を見せたり、エッチだと思われるポーズをとったりすると、児童ポルノだと言われちゃいます。裸やそれに近い格好で、お尻や胸やお股を映すと危ないよ。
[児童ポルノを持っていたら犯罪になるよ]
日本に住んでいるすべての人達は、さっき説明した児童ポルノと呼ばれる内容のDVDやデータを持ってはいけません。 スマホやパソコンの中にも、そういうデータを入れちゃダメです。 これは "すべての人達" が対象だから、子供が子供の裸や、エッチな格好をしている写真や映像を持つのもダメです。
[児童ポルノを持っていると罰を受けるよ]
目立ちたいとか、普通の子がしないような変わった格好をして気分よくなりたいという気持ちで、コスプレしたり、ちょっとエッチな衣装を着たりして、それを記録(撮影) したDVDやデータを持っていると、刑務所に入れられたり、百万円も罰金を取られたりします。
[どうすれば児童ポルノで犯罪者にならずに済むの?]
誰にどんな言われ方をしても、たとえお父さんやお母さんに言われても、エッチな格好をする撮影に出てはいけません。 もしそういう場所に連れて行かれたら、周りのオトナが見ていないときに逃げて、近くの交番や警察署に助けを求めましょう。または、その場所から逃げられない場合は、携帯電話に110と入れて、電話に出た警察のひとに助けてと言いましょう。
また、自分で自分のエッチな格好などを撮影するのもダメです。もしお友達に自分の写真を見せたいと思っても、さっき説明した「お股、胸、お尻......」みたいな、ちょっとエッチな部分は写しちゃいけません。スマホで自分を撮るときも、できればお顔だけ写すようにしましょう。
さて、ここからは文体を戻すが、どうして上記のような書き方が必要だったかお解りだろうか? 上の説明をバカにせず読んでいただけたなら理解されていると思うが、まさに説明の通りなのだ。
まず3号ポルノの定義が相変わらず曖昧で、結局のところこれまでと大して変わらない。ジュニアアイドルのポルノと呼ぶしかない着エロDVDは、メーカー各社のチキンレースと共に今後も作られ続けるだろうし、そうしたビジネスに取り込まれて使い捨てられる子供も後を絶たない。
さらに、会社として最低限の法律を意識し、危ない橋をなるべく避けるといった手法を採れる "プロ" はともかく、「目立ちたい!」とか「変わった衣装を着て自己満足を得たい!」といった衝動から、エロ要素の強いコスプレなどをして自分自身や友達を撮影したり、そのデータを所持したりする無防備な子供が問題だ。
例えば思春期の子供なんてアホなんだし、物を知らないし、精神的に不安定だし、痛い子が多くても仕方がない。そういう子達が無事にオトナになるまで見守ってやろうというのが社会の基本ではないのだろうか?
だが、そうした考え方はこの法律からは見られない。むしろそういう "痛い子" に対しても罰則を設けているも同然だ。これは法律に関わった専門家の皆様方が、いかに現実を知らないかの証明と呼べるかもしれない。
さすがにこれだけでは「言いすぎだろ」と指摘を受けるだろうから、単純所持を禁ずる部分の文面をお読みいただきたい。
『何人も、児童買春をし、又はみだりに児童ポルノを所持し、若しくはこれに係る電磁的記録を保管することその他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならない』
「なんびとも」とはどこからどこまでを指す言葉だろう? この書き方では "子供自身も含まれる" と解釈せねばならないだろう。未成年のレイヤーが胸やお尻を強調する衣装を着て、撮影会などに参加し、カメコらが撮った写真を受け取ったりしたら単純所持に引っ掛かるのである。
まだモヤモヤするという方は次の部分をお読みいただきたい。
『自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処するものとすること。同様の目的で、これに係る電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とすること。』
さて "自己の性的好奇心" とは何を指す言葉だろうか?
性の世界は非常に底が深く、「目立ちたい、見られたい」「変わった格好をして注目を浴びて気分良くなりたい」といった衝動の類も「性的」である。 校庭ののぼり棒で性行為の入り口に気付くといった経験をした方も多いだろうが、それも立派に性的な好奇心である。よって "性的好奇心には年齢の下限はないに等しい" と考えてちょうどいい。
また好奇心とはそもそもがどこまでも拡大解釈できる言葉なので、この2つをかけ合わせると、フロイトを持ち出すまでもなく、何から何まで性的好奇心と結び付けることも可能だ。
児童の側だけではなく、児童を虐待する側の視点で考えれば、そのひと自身が何で性的な興奮を覚えるかなど簡単に言葉で縛れるものではない。よって、児童も自覚せぬまま、気付いたら "変態ロリコン紳士のズリネタ" が山ほど撮影され、またそれが発覚しても今回の改正案の網の目を抜けられる内容ならばセーフということになる。ただセーラー服や下着が川を流れているだけの映像や、女性物の洋服を燃やすだけの映像が、AVとして流通している日本という国をナメてはいけない。
この児ポ法なる奇妙奇天烈な法律は、そうした専門的な知識をまったく持たない人間だけが寄り集まって組み立てた物だと断言させていただく。こういういい加減な法律を乱造するから、末端の警察も強引な捜査をするしかなくなり、冤罪だ人権侵害だといった不祥事がなくならないのだ。今は警察だけに批判が集まっているが、こうした 「その元になる法律」 を弄くり倒している連中も同様に批判されねば不公平だろう。
最後の最後に蛇足となるが、個人的には未成年の男性アイドルがどう判断されるのか気になる。この法律の文面をバカ正直に解釈するならば、彼らも児ポの範疇に含まれるため、たまたま衣装からうっかり乳首がこぼれたり、股間や尻を強調するシーンが出てしまった場合、そんなDVD・ライブ映像・写真集などを持っていたジャニオタの皆さんだって逮捕されねばおかしい。
児ポ法とはそういう法律だと知って下さい。
Written by 荒井禎雄
Photo by Diego Agudelo
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