【書評】歌舞伎町幻想を作り上げた傑作漫画『殺し屋1』(山本英夫著)|文・久田将義

2018年01月09日 

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その日が楽しみな漫画があります。「毎週●曜日がまだかな」。そんな漫画の思い出を皆さん、お持ちなのではないでしょうか。書評を書小説、ノンフィクションと漫画について書こうと思います。まずは漫画から。

予定は「殺し屋1」(山本英夫著)、「シガテラ」(古谷実著)、「BE-BOP-HIGHISCHOOL」(きうちかずひろ著)、「喧嘩商売」「喧嘩稼業」(木多康昭著)、「ギャング・キング」(柳内大樹著)、「ゴリラーマン」(ハロルド作石著)などにしておきます。

旧「週刊ヤングサンデー」(略・ヤンサン)で連載されていた「殺し屋1」(山本英夫)。1998年より連載されていました。
舞台は歌舞伎町。この街には、日本のヤクザのほかタイ人、中国人、韓国人の黒社会が組織化されています。ヤクザも治外法権という設定です。ここまではファンタジー。

当時、僕はリアリティをある程度追及していました。なので、「歌舞伎町はそんなことないんだけどな。ヤクザが全部仕切っているんだけど」と思っていましたが、それは野暮というものです。漫画は読者にいかに幻想を抱かせるか。作者の世界観に引き込ませるかが、腕の見せどころです。

作者の山本英夫先生は前作「のぞき屋」(探偵が主人公)では、盗聴の知識をかなり仕入れました。当時、僕は無線雑誌「ラジオライフ」を出していた三才ブックスに勤務していました。別冊で「盗聴すべて」という本の編集スタッフでしたので、山本先生が三才ブックスまで取材に来た時に、同席しました。よくメモを取られていたのを記憶していました。ですから「のぞき屋」の盗聴の描写は、かなりリアリティに富んでいます。

ファンタジーと言ってもそこは、リアリティを交えなけれぱ説得力が減ってしまいます。

「殺し屋1」は全10巻。元イジメられっこ城石一、通称「イチ」が防弾と鋭利な刃がかかとについている靴を履き、空手の技、かかと落としや回し蹴りで、標的を殺しまくります。彼の最大であり唯一といっていい武器がこの足技です。因みにイジメられっ子時代についても別冊で読むことができます。

「殺し屋1」がなぜこれほどまで、読者をひきつけたのかは山本先生の投げかける謎です。主人公を操る「ジジィ」グループの狙いは? というよりジジィの狙いです。なぜ、彼は自らの身体にドーピングし、さらに●●(ここはネタバレになってしまうので)まで施しているのか。ジジィの過去、狙いが最も本作品での謎かけです。が、ヒントは余り作中には描かれていません。

物語を俄然やばくさせているのが、ヤクザマンションの住民垣原組長で、イチが主人公だとしたらもう一人の主人公が彼です。歌舞伎町のヤクザマンション。実際にこの建物は歌舞伎町にあります。僕もこのマンションには何回か入った事がありますが、山本先生はかなり忠実に描いています。作中にもちゃんと描かれていましたがヤクザの組ばかりでなく、住民も住んでいます。
ジジィはもしかしたら、このマンションの住民だったのではないでしょうか、とふと思ったりもしました。だから最後のようなオチになったのではないでしょうか。
ことさら、残虐シーンがフィーチャーされるこの作品ですが、山本先生の描く「歌舞伎町幻想」にいかに浸れるかが、本書のポイントでしょう。「歌舞伎町ってこんな怖いんだ」。そう思いながら「殺し屋1」を読むと、楽しめます。映画化もされました。大森南朋、浅野忠信は良かったのですが......以下略とします。

歌舞伎町幻想をひたすら描こうとしたのが本作品ですが、最後の方につれて人間の性癖について描いていくようになります。それをを突き詰めると精神世界にまで入り込まなければならないのですが、それは次回作「ホムンクルス」に受け継がれます。因みに「ホムンクルス」は回を追うごとにどんどん難解になっていきましたね。山本先生の苦悩を描いているかのようでした。


文・久田将義

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