巨大な組織にたった一人で立ち向かう。
男たるもの、いや女性だってそんな物語に心踊ったことがあるでしょう。
古くはドラゴンボール。
孫悟空がたったひとりでレッドリボン軍の要塞へ乗り込んでいく回は、日本中のキッズの心を鷲掴みにしました。私も例に漏れず、ワクワクしながらページをめくった一人です。それがブルース・リーの死亡遊戯にヒントを得ているとわかるのはもっと大人になってからのこと。
さて、東京のベットタウンとして躍進している、埼玉県の武蔵浦和駅周辺。ここに、ドラゴンボールよろしく、巨大なものに小さな力で立ち向かうものがあります。
駅の西口からほど近い場所に立つ奇怪な建物。
なんだか妙~な顔のオブジェが異様な空気感を醸し出しています。近寄って見るとなおさら。
ポップな感じに仕上げようとしているのは伝わって来ますが、変にまつ毛が長いし目は何も見ていないし、ほのかな狂気を感じさせます。
カタカナで書かれた「イッテラッシャイ」も、稲川淳二がいうところの「この世のものではないな」の風情が丸出し。
「中華富士」という店名を隠してまで掲げられる顔オブジェ。
そして「今日は今日明日は明日」や「強い」のメッセージ。主語のない「強い」はなんだか怖い。
入り口側面には、招いている感じが全くしない招き猫。右手首の骨がへんな向きに曲がっています。
なんだかわからないけど、いざ入店!
外観とはうってかわって、店内はいたって普通。テーブル席が5つほどの街の中華料理屋といった雰囲気。(現在、店内の撮影は禁止になっているようです)
いや、普通じゃないところが! 冷蔵庫の上にミラーボールがぶら下がっています。夜は中華富士から「ディスコFUJI」になるとでもいうのでしょうか。
60〜70代くらいの夫婦が切り盛りしている模様で、奥様が厨房にいらっしゃりご主人は店内の掃除をされていました。日曜日以外、早朝から夜までたったふたりで長時間営業。
ご主人は、キャップにスカジャンという客商売とは思えないアバンギャルドな出で立ち。
しかし、掃除の最中に自分のタバコが水を張ったバケツに落としてしまい、一人でがっかりするというお茶目な一幕もありました。
メニューは多種多様で、丼ものや定食から麺類まで壁面に掲示されているものだけでも60種類はあるでしょうか。私はその中から、他では見かけないメニューを見つけ注文。10分ほどで出て来ました。
とんかつラーメン(800円)
醤油ラーメンのうえに乗ってますね、とんかつ。確かに、まごうかたなき「とんかつラーメン」です。
せっかくパラパラに炒めたチャーハンをドロドロにしてしまうあんかけチャーハンや、せっかくサクサクに揚げたかつをたまごでとじてしならせてしまうカツとじなどを見ると、美味しいんだけどなんだかいいところを相殺しているような、ムズムズした気持ちになることがあります。
もしや、このとんかつラーメンも。。。と思いつつスープに半分しずんだカツを一口。
サクッッ!
おぉ! なぜだかわからないけどスープに浸っているカツがサクサク! ラーメン自体は町の中華屋といった感じですが、サクサクとんかつがのって新食感でした。
食べているうちにご主人が掃除を終えられて、バケツに落としたけれどかろうじて一命を取り留めているタバコに火をつけて休憩をはじめられたので、お話を伺うことができました。
外の顔オブジェはご主人の作品だそうで、廃材を集めて作られたそうです。もともと造形の覚えがあるのかお伺いしましたが、そういうわけではないとのこと。ではなぜ、あんなもの(とは言いませんでしたが)を作られたのかときくと。
「この辺はむかし、ただの住宅街だったんです。でも最近、大きなビルやマンションがどんどん建って。。。ほら、目の前も大きなマンションがあるでしょ? あれができて、この店がなんだかめだたなくなっちゃったからね。それで。」
それで!? えぇ!!!!
これに!?
これで!!!???
すげえ!!
埼玉県にいました!! ブルース・リーと孫悟空に並ぶ「世界三大 巨大な組織にたった一人で立ち向かう男」!!
こんな場所で、世界三大のひとりに会えるなんて感激です!! そんな感慨にひたっているうちにとんかつラーメンも完食。
顔オブジェで、巨大タワーマンションに対抗する男! 中華富士、万歳!!(取材・文◎Mr.tsubaking連載 『どうした!? ウォーカー』第12回)
中華富士
埼玉県さいたま市南区影沼一丁目8-22
7:00~14:00 16:30~21:00
日曜定休
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