市長選で揺れた大阪府堺市のある繁華街で、数年ほど前から人々の間で囁かれている噂がある。
「80歳くらいのジジイが自転車に乗って暴走している」「そのジジイは猛スピードで車道も歩道も関係なく駆け抜けていく」
飲食店やコンビニなどで聞き込みをすると、どうやらその老人は夜の10時頃になると、人通りが少なくなった商店街を猛スピードで駆け抜けていくというのだ。そんな、にわかには信じ難い噂を調査するため、さっそくその繁華街へ向かった。
「本当にね、一瞬やで。ほんまに自転車かって思うくらいのスピードやねんから」
本当にそんな狂気じみた老人が実在するのか? 疑わしい話だが、とにかく夜の10時まで、しばらく商店街でその暴走老人を待ってみることにした。
そして、夜10時06分。
「危ない! 危ない! 危ない!」
誰かの怒鳴り声が聞こえる。声がする方向へ目を移すと、そこにはボロボロの自転車にまたがった、80歳をとうに越えたヨボヨボの老人が猛スピードで、こちらに向かってきた。キャバクラなどの客引き連中も、その老人には手出しができないようで、さっと道の脇へ身をかくしている。
老人は、絶妙のハンドルさばきで酔っ払いなどを避けながら、しかし、猛スピードで筆者の目の前を通り過ぎてしまった。すぐさまその老人のあとを追っかけるが、商店街から車道へと侵入していき、停車する自動車の間を駆け抜けていく。
そのとき、発車する乗用車が老人と接触しそうになり、クラクションを鳴らすと、「クラクションを鳴らすな! ボケが!」と、老人が恐ろしい剣幕で怒鳴り散らす。その横顔は、常人とは思えぬ表情だ。クラクションを鳴らしたドライバーも怒鳴り返す様子もなく、ただただ車を停車させ、暴走老人が走り去るのを待っていた。
そして、そのまま暴走老人は猛スピードでどこかへ去って行ってしまった。なぜ、あの老人は自転車に乗って猛スピードで走っているのか? また、どうして危険な車道をわざわざ走るのか? それらの謎を解き明かすことはできなかった。しかし、繁華街から少し離れた場所にある駐輪場で、暴走老人と関連がありそうな怪しげな自転車を発見した。
【脳梗塞ノタメ 車近付いて クラクション ナラスナ ヨロシク】
「クラクションを鳴らすな!ボケが!!」
なぜ、暴走老人が自動車のクラクションに対して、あれだけ怒鳴る理由があったのか。ただの「ヤカラ」とも考えられるが、その理由が、「脳梗塞」ならばすっと理解できるような気がする。しかし、間近で見た暴走老人の自転車に、あのような張り紙があったかどうか、はっきりとしない。なぜなら、その暴走老人は想像を絶するスピードで自転車をこいで、駆け抜けてしまうからだ。
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Written Photo by 村上茜丸
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