先日、新宿や池袋の繁華街で悪質な客引きに対する一斉摘発が行なわれ、16人が現行犯逮捕された。新宿区では2013年9月から「客引き行為等の防止に関する条例」が施行されたこともあり、今後、客引きの逮捕者は増えることと思われる。
しかし、この一斉摘発において逮捕された16人のうち6人は大学や専門学校に通う学生だったという。
客引きは学生にとって割のいい仕事なのか、だとすればどれぐらいの報酬が得られるのか、バックにヤクザはついているのかなど興味がわいたので、3年ほど前まで歌舞伎町で客引きをやっていた友人のT君に話を聞いてみることにした。
T君は現在、アルバイトで生計を立てる25歳。まず、客引きの世界に足を踏み入れた切っ掛けを尋ねると、T君は不健康そうな青白い肌に薄気味の悪い笑顔を浮かべながら答えてくれた。
「その頃、僕は○○会の人間と交流がありまして、その人によく分からない怪しい人を紹介されたんですよ。でも、その怪しい人が直接キャッチをしていたわけじゃなくて、その人に付き人のような人がいて......」
要約すると、○○会の関係者にキャッチを紹介されたということだった。
「直接、○○会に紹介を受けたって感じではないんだね」
「違います。でも、ショバ代は最終的にそこに入っていたと思いますが」
キャッチを行っている組織は複数あり、それぞれがケツ持ちを立て、縄張りが決められているということだった。
「ショバ代の相場っていくらぐらいなの?」
「グループによっても変わってくるんですが、5万ぐらいでした。でも、3万円でやっているグループもあるし、逆に僕がいたところはめちゃめちゃ高かったです」
「いくらぐらい?」
「15万もとるんですよ。相場の3倍じゃないですか。僕がいたグループは関西から出てきたばかりの新参者だったらしくて、それも原因だったと思うんですが、あまりに高いですよね。ショバ代はキャッチが月末にグループのリーダーに払うことになっているんですが、あまりに高いから、バックレる人も多かったですよ。僕も最終的にバックレましたし」
T君は一時期、「歌舞伎町は歩きたくないんですよね」と薄気味の悪い笑顔を浮かべながら言っていたことがあったが、その原因はどうやらキャッチ組織からのバックレが原因だったらしい。
「ヤクザやホストはバックレた相手を詰めたりするよね。キャッチの世界ではそういうことはなかったの?」
「わざわざ彼らの前に顔を出したらシメられるかもしれませんが、実家まで追いかけたりはしませんね。実際、詰めるような現場に遭遇したこともありませんし」
キャッチの元締めにしてみてもショバ代はあってないようなものだと考えているのかもしれない。下手に監禁でもして逮捕されたほうがリスクが高いのは確かだ。
しかし、末端のキャッチになめられてしまえば組織としての秩序を保つことはできない。時には脅しをかけるようなことも行なわれていたようだ。
「歌舞伎町のたこ焼き屋の二階にグループのリーダーに呼び出されていったことがあるんですが、わざわざヤクザの人間と話している場面だったんですよ。それで、あー、これは脅そうとしているんだなと分かりました。やり方があまりにもベタだったんで怖くはなかったんですが、今、持ってる金全部出せって言われて、そのときは3万ぐらい取られましたね」
次にT君にキャッチの縄張りについて尋ねた。T君はどのあたりでキャッチをしていたのか。
「僕は新宿区役所のあたりですね。他には、今はなくなっちゃいましたけど、コマ劇周辺、風鈴会館周辺なんかで分かれていました」
「なるほど。この間、学生が逮捕されていたけど、キャッチって儲かるものなの?」
「時期にもよりますが、結構稼げると思いますよ。たとえば僕の周りの例で言えば、書き入れ時の12月は人によっては100万はいけますね。1月になると50〜60万ぐらいになって、2月とかになると30万ぐらいの感じですかね」
ショバ代を払った後、それぐらい残るのだから高収入と言ってもいいだろう。学生がバイト気分で始めるのも分かる気がする。しかし、T君が知る中で最も稼いでいたキャッチの収入は尋常ではないものだった。
「一番稼いでいる人は12月に500〜600万は稼いでいました。でも、この人はダントツでフリーでお客さんをかなり持っている人でしたから特別ですけどね」
その人物は今では顔を見かけないという。ある程度金を貯めた段階ですっぱりと足を洗ったのだろうか。
ちなみにT君は仕事に熱心に取り組むほうではなく、せいぜい月に20万ほどしか稼げなかったということだった。そんな仕事への打ち込み方が、いまだに定職につかず日暮しをしているという生き方につながっているような気がしてならない。
客引きの稼ぎや縄張りなどがおおよそ分かってきたところで、具体的な仕事の流れを聞いてみることにした。すると、またしてもT君は青白い顔に薄気味の悪い笑みを浮かべながら答え始めるのだった。
<草下シンヤ『ちょっと裏ネタ』連載10 ※後編へ続く>
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Written by 草下シンヤ
Photo by T.kiya
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