国会はいまだに閉じたままだが、水面下ではアベノミクスならぬ安倍イズムが着々と進行している。推進部隊は安倍総理、お友達閣僚、霞が関官僚、官邸スタッフであり、有識者を名乗る取り巻きの御用ブレーンたちである。中でもウハウハ大喜びしているのは間違いなく財務官僚だ。財務省にとって長年の悲願だった消費税増税の目途がたち、とりあえず8%、10%を実現し、20%アップの時代も射程内に入ってきたからだ。国の財政を握る財務官僚にすれば、国庫収入の拡大こそ権力と権威を象徴する基盤なのだ。国の借金は1000兆円を超えても安倍内閣にとっては他人事のような経済政策ばかりだ。
来年4月から消費税増税を8%に決めた安倍総理は、上向き基調にある景気の腰折れを危惧しており、増税3%のうちの2%のあたる8兆円を経済対策につぎ込む方針を示している。それと同時に企業減税も検討中だ。企業に割り当てられた特別復興法人税に関しても、前倒しで廃止する意向を示している。経団連の米倉会長は、こうした安倍政権の企業優遇の政策に歓迎の意向を表明し、これが給料アップに結び付くことを示唆している。しかし、企業がいくら儲けても内部留保として蓄積するだけで、社員に還元されるかどうかは疑わしい。
直近の国税庁の調査でも国民の平均給料は2年連続の減少だ。非正規雇用と正社員の格差は広がるばかり。安倍総理としては、何が何でもアベノミクスを成功へと導くために、国連やウォール街での演説も空疎ながらイケイケどんどん、躁状態のようなハイテンションぶりだ。本人はヒットラー気取りかもしれないが、国民はシラケるばかり。
アベノミクスが成功すればばいいが、失敗すれば国家の存亡にかかわる財政危機を迎える。財政の健全化というよりも、どちらかといえば国家的大博打という方が正確だ。にもかかわらず、安倍総理は外遊三昧で、各国に財政支援をばらまく外交を続けている。特別復興法人税で減収となる分は、被災地に迷惑をかけないで国費で賄うと、独断専行する。国民には増税、年金削減、物価高を強いて、企業に関しては特別優遇をはかる政策は、紛れもなく米国型の格差社会を助長する新自由主義経済への道だ。
7月の参議院選挙で大勝した安倍政権は、10月中旬まで国会も閉じたままで、重要な国策は有識者や官僚組織に丸投げしている。安倍総理の民意不在の政治手法は誰が見ても独裁政治である。にもかかわらず、安倍内閣の支持率が上昇するという奇妙な結果が出ている。安倍内閣が財界、官僚、米国というトライアングル路線を推進し、それを無批判に垂れ流しているのが大手メディアの現状だ。安倍総理もメディア幹部とのパイプ作りに余念がない。まさに、戦時下なみの大本営報道体制も同時進行中だ。
日本は多くの難題を抱えている。昨年の民主党政権下で自民、公明、民主の三党が交わした消費税増税の合意は、「税と社会保障の一体改革」だったはずだが、いつの間にか放棄された。安倍総理がブエノスアイレスのIOC総会で啖呵を切った福島第一原発の放射能汚染水はコントロールされており、東京には影響はないとの発言は当の東京電力幹部からコントロールされている状況ではないと否定された。その後、安倍総理は防護服に身を固めて視察団の中で一人だけ赤いヘルメットをかぶって海外メディアの前でパフォマンスを展開したが、その後に汚染水が海洋に流出するのを防ぐために設けられたシルトフェンスが破損していることも発覚した。漁民たちが絶望的な気分に追い込まれていることなど、この国の為政者は知る由もないのだろう。
原発事故の元凶である東京電力は新潟柏崎刈羽原発の再稼働を急いでいる。強気だった新潟県の泉田知事は、圧力に抗しきれなかったのか、フィルターベンツの厳密化を条件として、再稼働への手続を了解した。ひとつ認めれば原発再稼働への流れは加速されるだろう。どう見ても、安全よりも経済を優先する国策にそったものだ。むろん、原発海外売り込みとも連動している。TPP参加や国家秘密保護法も米国の意向に沿ったもので、すべては米国追従。
安倍悲願の集団的自衛権の確立は、連立与党の公明党の意向で先延ばしされる可能性もあるが、安倍総理の本音は地球の裏側まで米国とともに戦闘行為に踏み切る日米運命共同体である。危うい政権に対する批判力を失った大手新聞は消費税増税を免れるために軽減税率を求めている。ご都合主義も極まれり、である。
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「安倍政権の野望に対して、国民の知る権利に答えていないメディアは死に体」 岡留安則の『編集魂』
Written by 岡留安則
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