プチ鹿島の「余計な下世話」

カルロス・ゴーン被告の変装には元ネタがあった! 弁護士が裁判所に対して使った"禁じ手"|プチ鹿島

2019年03月11日 カルロス・ゴーン被告 マスコミ 作業着 変装 禁じ手

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sagyou.jpgゴーン被告は作業着変装の報道なんてどうでもいいと思ったのだが...


 日産元会長のカルロス・ゴーン被告の「変装」の件。変装ばかりがクローズアップされ、もういいよと思った方も多いだろう。そんな報道に本質なんかない! と。正直私もそう思っていたのですが、だけどちょっと待てよ。多くの人がザワッとしたことや、えッ⁉と思った「目立った風景」にはやはり大事な意味が隠れているかもしれない。
 そう考えて保釈翌日の新聞各紙を読んでみました(3月7日)。
『バレバレ変装脱出』(日刊スポーツ)という見出しもあったが、実は、マスコミ陣の困惑を伝えた記述も多かった。

《おとりのような黒ワゴン車に気を取られた記者からは「分からなかった」「何かの工事かと思った」と声が漏れた。》(東京新聞)
《「えっ、ゴーン被告?」中継中のテレビ局の記者は声を裏返し、言葉に詰まった。他の報道陣も「変装か」とざわつき始めた。》(朝日新聞)

 あの場、あの瞬間では意外に有効だったことが紙面からわかる。変装を仕掛けたという高野隆弁護士(宮崎駿似)に関する記事が興味深かった。

《「無名の刑事事件でも愚直にやり続け、数多くの無罪を得てきた」と認められる重鎮だ。「理想を追求する原理主義者。かつては異端だった」。》(朝日2月16日)

 では「無名の刑事事件でも愚直に」と「異端」とは、具体的にはどんなことだろう。すると『20年前にも「禁じ手」』という記事があった(朝日3月7日)。
 はー、あのゴーン保釈時の変装を20年前にも仕掛けていたのか? と思ったが、「保釈を認めさせよう」という戦略のことだった。

《その源流は、20年以上前の夫婦げんかの事件で使われた「禁じ手」にあった。》という。
 1996年、不倫した妻を殴ったとして逮捕された夫の暴行事件があった。夫は一部否認を続け、公判が始まっても保釈が認められなかった。高野氏は5回目の請求でこんな提案をした。
《夫は高野氏が契約したアパートに住む▽平日の午前9時~午後6時は高野氏の事務所で職員として働く▽夜間と土日は弁護人の監督下で生活し、市外に出る時は弁護人が付き添う――。》(朝日・同)

 当時、一緒に事件を担当した弁護士はこの提案を「プライバシーを過剰に制限する『禁じ手』だった」と振り返りつつ、「ばかばかしい話だが、そうまでしないと裁判所は認めなかった。時代が変わって監視カメラになっただけで、本質は変わっていない」と記事で述べている。
 人質司法に抗戦する高野弁護士からすれば有名な「ゴーン」も無名の「夫婦げんか」も同じ。20年前から変わっていないらしい。

 そう考えると、ゴーン保釈時になぜ変装させたのか? という高野氏側の「気持ち」も見えてくる。朝日の社会面には「後ろめたいところがないなら、変装せずに堂々と出てきてほしかった」という声が載る一方、「マスコミに追われないようにする意図があった」という関係者の言葉があった。保釈時のプレッシャーを軽減させるためだと。

 なるほど。あの変装は保釈のスペシャリストゆえに「全力ですべった」のだろう。高野弁護士はブログで変装騒動を謝罪したが「人質司法」に注目が集まり、次は何を仕掛けてくるかわからないという印象を与えた意味ではニンマリしてる可能性もある。

 ではここでもう一度「保釈条件」に関する記事を並べてみよう。

『保釈条件「抜け道だらけ」』(産経)、『住居接触など「抜け道ある」』(東京)という指摘もある一方、『揺らぐ日本型司法』『長期勾留など見直す契機に』(日経)という報道も多い。

 今回は、変装保釈というわかりやすい話題に「人質司法」への問題提起が絶妙に仕込まれていた。やはり変装騒動に時間を割いて注目するのは当然か、と私は考え直した。あの作業着がどこで売られ、どれぐらいの値段かという報道はどうでもいいとしても。(文◎プチ鹿島 連載『余計な下世話』)

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