憑きもの体験記3「死ぬかと思った。冷たい手だったよ!」|川奈まり子の奇譚蒐集四十

すべては神社から始まったのだが、陽炎のようなものは、もう現れず、こんどは髪の長い女、あるいは姿を見せない何かが出没しはじめた次第だ。

これは、数ヶ月後、ここ札幌での仕事が片付くまでダラダラと続いた。

東京に向けて出立する前夜、居酒屋に集って打ち上げをした。

長い滞在期間のうちには、地元に住むクライアント側のスタッフとも親しくなっていたので、彼らも招き、大所帯な宴会を開いて盛り上がった。

酒が回ってくると、滞在期間中に頻発した怪奇現象についても話題に上った。

すると、そのうち、地元の仲間は誰ひとりとして、そんな体験はしたことがないのがわかり、「東京から連れてきたんだろう」と指摘される運びとなった。

東京チームにとっては面白い展開ではないが、自分たちが遭遇した幽霊や超常現象とは地元民は無縁だと言われてしまうと、否定できなかった。

――なんだか悔しいなぁ。

何も悪いことをしていないのに、毎晩のように怖い思いをしてきたのだ。

それを、あたかも自業自得のような言われ方をされると、理不尽ではないか、と、むかっ腹が立った。

そのとき、ふと、川越で頭痛をタナカさんに伝染したことを思い起こした。

神社で、陽炎の化け物に取り憑かれて、すぐに激しい頭痛に襲われた。鎮痛剤を服用して眠っている間に、タナカさんが悪夢を見て、同時に頭痛も引き受けてくれた。

タナカさんが頭痛を訴えたとき、こちらはケロリと治っていた。

――この人に、伝染ってくれないかなぁ。

斜め向かいにいる地元スタッフを、ぼうっと見つめて、そんなことを考えた。