憑きもの体験記3「死ぬかと思った。冷たい手だったよ!」|川奈まり子の奇譚蒐集四十
翌朝、東京へ向かうチーム一同は、一様に爽やかな表情で、皆、顔色が良かった。昨夜はかなり深酒したのもいたのに、二日酔いになった者もない。
「ゆうべは面白いぐらいスッキリ眠れた!」
「久しぶりに熟睡できた」
口々にそんなことを述べ合っている。
「幽霊も出なかったな」
「不気味な夢も見えなかった」
「憑き物が落ちたっていうのは、こういうことだろうか?」
――これで終わったんだ。ということは、もしかすると伝染せたのかしら。
打ち上げの席で斜め向かいに座っていた地元スタッフのその後が気になりはじめた。もしも、あちらに怪異が移動していたとしたら、罪悪感を覚えないわけにはいかない。
気に懸けていると、その人が、わざわざ見送りに来たのであるが、どうも恨めしそうな目つきを向けてくる。そこで、やはり伝染してしまったのかと予感していたら、案の定そうだった。
「昨夜は、家に帰ってからずっと、わけもなく寒気がして鳥肌が治まらなくて、おまけに家中からベキベキ変な音がしてきて、一睡も出来なかったの! おかしなものを置いていかないでちょうだい! 東京に持って帰って!」
参考記事:虫の知らせ 「今日は何か変だ…帰った方がよさそうな気がする」|川奈まり子の奇譚蒐集二三 | TABLO