能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第2回

齋藤先生 相撲は力比べじゃないんで。いい相撲は、相手に何もさせない相撲です。何もさせない、それを覚えてほしいです。センスがある子が負ける時って、力抜いたように負けるんですよ。何にも出来ないのが分かっているから。センスがない子は最後まで力を入れるから、ケガのリスクも高くなります。

能町さん 私、貴乃花の横綱相撲が好きだったんですよね、封じ込めて勝つ、まさに相手が何もできなくなるような相撲で。

――まわしの取り方も指導されてましたよね。

能町さん 立ち合いでいきなり「一枚まわしを狙え」と教えてらっしゃったのが意外でした。

齋藤先生 まず、まわしは小指から取りに行けってことですね。上手は小指から取りに行くと脇が閉まるんですよ。「一枚まわしを握れ」っていうのは、まわしを指先で引っかけただけだと手首って固まっちゃうんですけど、親指を通して握れば手首を使えるんですよ。まわしも切られにくくなるし。私の現役のときもそうだったんですけど、慣れてくると感触でできるようになるんです。

能町さん 素人考えだと、ガッチリつかむために全部つかみに行ったほうがいいんじゃないかと思っちゃうんですけど。

齋藤先生 ホントに力がある人はそれでいいんですよ。ただ、頭つけて相撲を取るタイプの子はガボッと取っちゃうと上から切られるリスクがあるから、そのリスクよりはちゃんと親指を通して肘が曲がるようにしておいたほうがいいです。

能町さん なるほど。多少まわしが伸びちゃっても、思いきり持ち上げていけば。

齋藤先生 そうです。お相撲さんは「拝む」っていいますけど、そういうふうな姿勢で、肘関節を伸ばさない。

能町さん まわしが青色の選手と白色の選手がいますが、青まわしがレギュラーということですか?

齋藤先生 結果を残した子たちですね。団体戦に出る子は基本的にみんな青まわしです。だから、みんな青まわしが欲しいんです。青まわしを持っている子が稽古の時に白を使うこともありますが、白まわししか持っていない子は白しか使えません。

能町さん 他の大学の相撲部は、だいたい白なんですね。

齋藤先生 今は日大が黒とか、けっこうほかの色もいますよ。近大も紺ですし。大相撲の相撲部屋で稽古するときは白まわしが関取の地位を意味するので、だったら白じゃないほうを、という選び方でもあります。

能町さん このなかに、これからプロに入る子もいるんですよね。

好角家として知られる能町みね子さん。相撲の話になると目の色が変わっていました。

齋藤先生 4年生から、3人ぐらいお相撲さんになります。キャプテン(高橋優太選手)と、副キャプテン(今関俊介選手)と、もうひとり今日はケガの影響でやっていなかった子がいるんですけど、その子も体重別の135キロ以上のクラスで、全国で準優勝です。中村(泰輝選手)が優勝したんですけど。

能町さん 今、高砂部屋にいる石崎(拓馬・現在幕下)さんの弟さんもいい稽古されてました。

齋藤先生 あの子は3年生なんですけど、入る気ないと思います。

能町さん そうなんですか……。入りそうだと思ってました。当たりがよくて、すごく気合い入ってましたね。

 

●体重は軽いほうが、土俵は大きいほうがおもしろい

能町さん 日体大相撲部にはあまりアンコ型がいないというお話がありましたが、今の大相撲はどうしても体重が重いほうが有利なので、みんな増量しちゃいますよね。でも、仮に体重制限があれば、すごく面白くなるとも思うんですよね。たとえば130キロ以下ぐらいにしたら格段に動きが速くなる。

齋藤先生 アマチュアレスリングは、200何キロの選手なんか出てきたら、大きくなりすぎてそもそもレスリングの本質と変わってきちゃうわけです。だから、それじゃ面白くないということで上限が決めてあって。体重制限を設けたんですよ。それもひとつのアイデアだと思います。

能町さん まったく体重無制限でやること自体が「大相撲」だから、そう簡単にそれを導入するわけにはいかないと思いますけど、たとえば本場所以外で、100キロ以下だけで優勝を決めるようなリーグがあれば相当面白いと思いますね。齋藤先生は、土俵がもう少し広かったほうが面白いって話もされていましたよね。

齋藤先生 絶対面白いですよ。土俵の大きさを変えることはできるんですよ。昭和初期の頃も変えてますからね。

能町さん そうですよね。

齋藤先生 昔は13尺といって、直径が3メートル90センチだったんですよ。いまは15尺。1回、16尺に広げたことがあるんですよ、GHQの指導で。

能町さん GHQだったんですか!?

齋藤先生 なぜかは知らないですけど、土俵を大きくしろと。その時はお相撲さんの評判が悪くてすぐに戻りました。

能町さん よく「足の裏に目がある」なんていいますけど、さんざん稽古でやり込んだ大きさだし、最初は勘が働かないでしょうからね。これくらい下がったら俵だっていう感覚が狂ったら確かにみんな困りますよね。

齋藤先生 でも、もっと大きくしたほうが絶対面白いです。極論、相撲場が野球場だったら大きな人のメリットは何もなくなるんですよ。

能町さん そうですね(笑)。モンゴル相撲みたいな感じですよね。ただただ押したり寄ったりするだけじゃどうにもならない、何らかの技をかけないと相手が倒れませんもんね。

 

●立ち合いと仕切り

能町さん 立ち合いも、納得いかない部分はあって。互いに両手をつかなきゃ不成立、って定めちゃったことによって、制限がかなり強くなってしまった気がします。昔はもっとタイミングだけで合わせてましたよね。

齋藤先生 そうそう。手もつかないでお互いにポーンとやってましたね。

能町さん そうすると、もう少し攻防が生まれるかもと思うんですよね。手をついちゃうと、立ち合いの比重が大きすぎる気がして。親方衆には「立ち合いで8割9割決まる」と言う方もよくいらっしゃるし、確かに立ち合いは大事だと思うんですけど、そこだけで電車道とか叩き込みとかですぐに決まっちゃうのは、攻防がないまま終わってしまって少し見応えがないというか。立ち合いが違えばまた面白くなるんじゃないかなと思うんですよね。学生相撲の立ち合いはどうなんですか?

能町みね子さんに聞きました 「座布団投げ」「コール」は有り無し? 大相撲人気で観客のおかしなマナー | TABLO