能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第2回
――ヤーブローはUFCで負けちゃってましたね(註・1994年のUFC3で総合格闘家としてデビュー)。
能町さん そうなんですか! その頃は弱ってたんでしょうね。
齋藤先生 だいぶ弱ってましたね。5年くらい前に亡くなっちゃったんですけど、すごく優しい人で。試合で会った時によく話していて、ホントはそういうこと嫌いな人なんですよ。もともと薬のデリバリーしていたんですよ。
能町さん へええ! じゃあ、大きさだけで目を掛けられて。
齋藤先生 お金のためにもやっていて。だから負けることは自分にとって全然嫌なことじゃないから、UFCに出てもすぐ負けちゃって。
能町さん 相撲というものをよく知らない人同士で相撲をやってみる、みたいな海外の動画を見たことがあるんですけど。転ぶか土俵から出たら負け、っていうルールだけは一応わかっている、ある程度格闘技をやっているふたりが戦うんですけど、まず立ったあとに当たらないんですよね。レスリングみたいな、見合う状態になっちゃって。知らなかったら確かにまずそうなるかもなって。
――ぶつからないんですね。
能町さん ぶつかるのって怖いですもんね、リスクも大きいし。相撲で、立ち合いでまずぶち当たるっていうこと自体、異常なことなんですね。
齋藤先生 モンゴルの人たちは日本に来てみんな立ち合いに困ったんですよ。ウチのモンゴルの子はレスリングやってたんで、どうしてもレスリングの癖が出ちゃうんですよ。今の学生横綱の子もそれで最初は困ってたんですよ。
能町さん やっぱり引いちゃいますもんね。宇良関なんか、いまだにちょっとレスリング感がありますね。
齋藤先生 宇良関はあれでいいんですよ。ただケガのリスクは高いですね。――あ、これ、ヤーブローとやった試合です(映像流す)。
能町さん うわっ。ヤーブロー、映像で観るの初めてかも!
齋藤先生 私はこれ、一番強かった頃ではないので。武双山関(現:藤島親方)が学生の頃ですね。
――齋藤先生が小さく見える……(註・ヤーブローの突進を齋藤選手が受け止めて、豪快な右掬い投げで勝ち)。第3回に続く
■プロフィール
齋藤一雄
昭和六十三年、全日本相撲選手権において優勝する。翌年、平成元年の全国学生相撲選手権では団体優勝を果たす。日体大の教員を経て平成十六年から学友会相撲部の監督に就任。平成十九年・二十年・二十三年・二十六年と監督として全国学生相撲選手権で本学相撲部を学生日本一に導く。2021年第99回全国学生相撲選手権大会の団体戦で7回目の優勝を果たす。また、個人戦においては平成二十年から七年連続決勝進出者を輩出し、数々の横綱に輝いている。日体大からの学生横綱 垣添徹(後に小結「垣添」)、明月院秀政(現幕内「千代大龍」)、中村大輝(現幕内「北勝富士」)、一ノ瀬康平、中村泰輝(現3年生)、デルゲルバヤル(現幕下「欧勝馬」)。日本体育大学教授。医学博士(日本体育大学相撲部ホームページより)
能町みね子
北海道出身。文筆業。著書に、『くすぶれ!モテない系』(文春文庫)、『雑誌の人格』シリーズ(文化出版局)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『そのへんをどのように受け止めてらっしゃるか』(文春文庫)、『私以外みんな不潔』(幻冬舎)、『結婚の奴』(平凡社)など。NHK「シブ5時」出演の際は、その場所の相撲の見どころなどを紹介・解説する好角家。