能町みね子が日体大相撲部齋藤一雄監督に聞く 相撲の稽古・技術・そして大相撲 第2回

齋藤先生 学生のほうが厳しいですよ。プロは片手ついて、片手を添えて、で取組を始めてますけど、学生は両手をつかなかったら基本的にやり直させます。

能町さん そこはしっかりしてるんですね。学生の場合、審判はどういう立場になるんですか?。

齋藤先生 学生相撲は、行司じゃなくて主審が「はっけよい」の声をかけるんですけど、立ち合いが成立してるかどうかを判断するには審判長っていうのがいるんですよ。その人がおかしいと思ったらやり直し。

能町さん そこは大相撲と同じなんですね。大相撲の立ち合いは、もはや慣例みたいな感じで、制限時間いっぱいまで誰も立たないようになっちゃいましたね。仕切りに制限時間というものは本来なくて、何度も仕切ってるうちにどこかでお互い気持ちを決めて阿吽の呼吸で立つものだったのが、ラジオ放送が始まってから制限時間ができたっていう話ですけど。昔だったら時間前でも気合が乗って立つ人がいたのに、いまは時間前の仕切りがセレモニーみたいになっちゃってて、そこが観てる側としては残念なんですよね。

齋藤先生 確かにそのとおりです。緊張感なくなりますよね。

能町さん 学生の場合はどうなんですか?

齋藤先生 学生は仕切り直しがないです。

能町さん それはスッキリしますね。

齋藤先生 昔はあったんです。1回仕切り直しとか2回仕切り直しとか、回数で決めていました。でも、世界に広めるときに、まず外国人はあまりその意味が分からない。第1回世界相撲選手権は今の大相撲みたいなルールでやったんですが、普段から相撲を行っている選手があんまりいなかったんです。レスリングのチャンピオンだとか柔道のチャンピオンの外国人選手からすると、阿吽の呼吸なんて意味が分からないんですよ。

日体大相撲部監督でもありながら研究者でもある斎藤一雄先生。

能町さん それはそうですよね。

齋藤先生 何で相手に合わせなきゃいけないんだ、と。

能町さん 確かに(笑)。

齋藤先生 そこで、両者が両手をついて「はっけよい」で立たせましょう、と。そのときに、アマチュアの場合は仕切り線を陸上競技のスタートラインと同じように考えることになったんですよ。プロの大相撲は仕切り線の上、もしくはその手前に手をついて立つんですけど、スタートラインには触れちゃいけないんで、アマチュアは仕切り線の手前にしか手をつけなくなったんです。

能町さん なるほど! 選手は関係なく、主審がスタートを決めるみたいになったんですか?

齋藤先生 そこは、しのぎ合ってお互いに呼吸を合わせて、両手をついていればいい、みたいな形になっています。

能町さん 「阿吽の呼吸」は確かに理解しづらいでしょうね。

齋藤先生 他の競技はみんな、相手との呼吸をどうやってずらすか考えるじゃないですか。

 

●第1回相撲世界選手権は天下一武道会みたい

齋藤先生 世界相撲選手権大会の第1回に私は出てるんですけど、天下一武道会みたいなもんでした(苦笑)。

能町さん 力自慢が「相撲は知らないけどやってみよう」みたいな(笑)。

齋藤先生 そのときに私が決勝戦で当たった相手は身長2メートル5センチ、体重が270キロの……

能町さん ヤーブローですか!?

齋藤先生 ご存じですか? そのヤーブローです。

能町さん ヤーブローと戦ったのが齋藤先生だったんですか!? 当時雑誌で読んで、とんでもない怪物だと思ったので覚えています。

齋藤先生 ネットで探せば出てきますよ。そのとき、のちに大関になった出島関(現:大鳴戸親方)、あれがまだ大学1年生で、団体戦で当たって吹っ飛ばされたんですよ。

能町さん え! 出島さんが吹っ飛ばされたんですか?

齋藤さん 真っ正面でバーンと吹っ飛ばされてました。

能町先生 小錦関より大きかったですもんね……。

齋藤 ちょっと待ってくださいね。探してみます(とパソコンに向かう)。