心愛ちゃんが信頼する先生に出したサイン 虐待事件裁判における子どもたちの痛ましい共通点と傾向

2019年02月06日 心愛ちゃん 死因 虐待事件 裁判傍聴 鈴木孔明

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gyakutai.jpgそれでも、お父さんとお母さんなのだ...


 西森圭(仮名)は、まだ9歳になったばかりの長男の両足を持って何度も何度も投げ飛ばしました。彼の供述によるとそれは『しつけ』のためでした。柱にぶつけた長男の腕はみるみるうちに赤黒く腫れ上がりました。後の診察の結果、骨折していたそうです。

 腕を押さえ、声を殺して泣いている長男に彼は言い放ちました。
「泣くな! お前が悪いんだ!」
 この『しつけ』という名目の傷害事件を目撃していた次男は警察官の取り調べに対して「お兄ちゃんは殺されると思った」と供述しています。

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 彼の『しつけ』が始まったのは長男が2歳になった頃からでした。
「言うことを聞かないから」
 そんな理由で彼は長男に対して日常的に暴行を加えていました。9歳の子どもが、親の言うことを全て聞くことなどできるでしょうか。ましてや2歳の子どもがそんなことを出来るはずもありません。もし言うことを聞かなかったにせよ、それは暴力が正当化される理由には絶対になりません。

 長男に暴行を加え骨折させた彼は傷害罪で起訴されましたが、起訴事実を否認し無罪を主張しました。

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 今まで虐待事件の裁判をいくつか傍聴してきました。あくまで自分で傍聴してきたものに関してですが、それらには共通点がありました。

 暴力、性的虐待、ネグレクトなど、どのような形であれ日常的に虐待を受けている子どもが自発的に周囲の大人に助けを求めることがほとんどない、という点です。

 どんなに酷い虐待を受けていても、彼らにとっては大切なお父さんとお母さんなのです。
「虐待にあっていることを誰かに言えば、家族が崩壊する」
 そのようなことを言って彼らは周りの大人に被害を隠していました。彼らは自分自身を犠牲にしてまで家族を守っていたのです。虐待の兆候に気づいて助けようと手を差しのべる大人が現れても、彼らはその手を振り払い拒絶していました。

 大人や社会への不信感もあったのではないか、と思います。彼らはずっと、最も身近な大人である親に虐げられ続けてきたのです。そんな子どもたちが他の大人など信じられるはずもないと思います。

 話はすこし脱線しますが、コンビニ店のファミリーマートが『子ども食堂』を始めるそうです。賛否はありますが、居場所のない子どもたちに居場所を提供し地域ぐるみで子どもを見守って大切にしようという取り組み自体は良いことだとは思います。
 しかし、従来のNPOが運営しているような『子ども食堂』にも同じことが言えると思いますが、虐待や貧困など本当に深刻に助けを必要としている子どもたちを捕捉できるような取り組みではありません。そういう子どもたちはむしろそこには背を向けるのではないかと思います。

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 先日、小学校4年生の栗原心愛さんが父親による虐待とみられる暴行によって亡くなったというニュースがありました。報道によれば、この事件に関しては助けを求めるサインが出ていました。
 今となっては想像することしかできませんが、いつも接している中で信頼関係を築いていた先生だからこそ心愛さんは勇気を振り絞って自分の受けている虐待を告発したのだと思います。それにもかかわらず学校関係者の不手際、専門機関の連携不足などが重なって最悪の結果を招いてしまいました。このような痛ましい事件は後をたちません。

 これまで観てきた虐待事件の被告人となった親たちはほとんどが起訴事実を否認していました。その一方で、子どもをとても大切に想い愛していたとも語っていました。

 そして被告人自身も過去に虐待を受けるなど劣悪な生育環境に育ったトラウマや病気など、様々な苦しみを抱き助けを求めていました。その求めは誰の耳にも届くことはなく、彼らの抱いた苦しみは子どもの愛し方を著しくねじ曲げました。たとえどんな事情があれ虐待は許されません。しかし子どもを守ることを第一に考えた時、彼らの声にも耳を傾けなければならないと思います。

 救われなくていい人間など、誰もいないのです。(取材・文◎鈴木孔明)

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