何で偉そうな人っているのでしょうか。偉そうな人は僕は嫌いです。というより、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という精神が好きなのです。偉い人ほど謙虚です。
前回に続き、「偉そうな人」の抗議をつづっていきましょう。
僕が編集長を務めていた雑誌の発売から約三週間くらい経ったあと内容証明書が届きました。
「ああ、またか」
当たり前のように内容証明を読みます。
相手は有名国会議員でした。テレビの露出も多かったです。ここではC議員としておきますね。この連載一回目に登場した議員と違い、選挙が強いです。
C議員は官僚出身であり、色々な業界との癒着が昔から取りざたされていました(あ、一回目に登場した議員も官僚出身でした)。
C議員からの内容証明書の内容はかなり激烈でした。弁護士によってはソフトな書き方と、とりあえずやっちゃえ、みたいな感じで読んでいて落ち込んでくるような「名文」(つまり激しい文章)を書いてくる人がいます。彼は後者でした。
『当該記事は議員の家族の件についても言及しており、公人ではない自分の家族についての記事は許せん』というのが趣旨でした。
内容証明書には、ある新聞のお詫び記事のコピーが同封してありました。それは全面的にC議員に謝罪している内容でした。C議員の弁護士はこれを参考に謝罪しろ、と言うのでした。すごい強引。僕はけっこう内容証明書を貰いましたが、こういう内容証明書はあまり記憶にないです。
内容証明書は裁判を前提に出すものが多いですが、抗議の強さをアピールするものでもあります。C議員は裁判を望んでいないようでした。なぜなら、執拗に面会を要求するのです。
問題がありました。
第一条件がライターと会いたいというのです。僕としては、そのライターにとって初めての内容証明書の体験だったし、守らなければならないという意志はずって持っており、屈することはできません。会わせろ、会わせないのやりとりが続きました。
電話のやり取りはもう何回目でしょうか。粘る僕に、しびれを切らしたのか相手の弁護士がこう言いました。
「編集長、うちの先生についてはわかってるよね。返答次第では逮捕拘束もありえますからね」
はあああ?
連載第一回目の政治家が僕に放った言葉「君を抹殺するぞ」もビックリしましたがこれもビックリしました。恫喝です。
僕は、これには度を失うほど怒りを覚えてしまいました。「どうぞご自由に」と、思わず電話口に向かって開き直りそうになりました。しかし、こういう時こそ冷静にならなければいけません。
すぐに当時の社長に「向こうが、僕を逮捕拘束すると言っていますが、言い分を飲むことはできないので拘束されてきます」と伝えました。本気でした。
が、会社としては「それはダメだよ」とおっしゃいます。優しい社長なのです。当該ライターも「これも経験ですから」と潔い態度を示してくれたのだが社長も「君をそんな目に遭わせなくてもいい」ということで、結局先方の弁護士事務所で対面ということになりました。
国会議員の顧問弁護士って偉いんですね
面会当日。
こちらは顧問弁護士、僕、ライターの3人。向こうは若い弁護士と年配の押し出しの強い「恫喝」弁護士。それとまだ未到着のC議員。さすが有名議員の弁護士だけあって事務所も広さといい、規模の大きさといい大したものでした。顧問弁護士って儲かるんですね。
広い応接室。両者の距離を隔てた大きなデスク。C議員が入室してきました。テレビで見るよりもかなり小柄です。
ライターが、こちらの記事の信憑性を説明します。もちろん情報源は言えないが業界では有名な人間でかなり信頼のおける人物であること。また、他紙記者らもこの人物から情報提供を受けていること等など。
C議員はしきりにライターの素性を知りたがっていました。官僚の情報網で何か探ろうとしていたのかなと今では思います。
色々質疑応答が繰り返されたましが、C議員は当時少なくとも大きな裁判を二つ、抱えていたはず。そのことを僕は言ってみました。
「先生も他に裁判も抱えて大変ですよね。ここでまた一つ、問題が起きるのは得策ではないのではないですか」
するとC議員は「うんうん」とうなずきました。結局、裁判はしない。「その代わり、訂正文を載せてくれ」ということでした。ここで粘ることも選択肢としては有りでしたが、訂正文を掲載すること自体さして手間ではないです。それからまた、報道を続ければいいのです。
編集人としては不本意ですが、僕は裁判になって会社に金額面で損を出させるのが申し訳ないと思っていました。また裁判はライターにも時間的、金額的にも負担を負わしてしまうのも気の毒でした。
「逮捕するぞ」と言われて、確かに怒りが沸いたのですが、僕の小さなプライドなどどうでもいいです。むしろ、ライターの心情が気になりましたが、幸いに腹の据わった男で「いずれにしろ、ライター業ではこういう事は起こるでしょうから」と言ってくれました。ごめん。もちろん、このライターとは今でも付き合いはありますが、感謝の気持ちは忘れていません。
国家権力が主導権を握ったとき、僕ごときは簡単に職を失い、路頭に迷うはめになる可能性があるのだなと、またも感じましたね。
で、C議員は別れ際に、無理やり僕らの両の手を握りしめ「これからは宜しく頼むよ!」と一人ずつ力強く言っていました。選挙ではこんな感じなのでしょう。政治家らしいなと変に感心しました。
結果的に軟着陸に持って行ったという点では、まあまあかなと思っています。今、彼には恨みはないですが、弁護士はムカついています。(『トラブルなう』より加筆・修正)
文◎久田将義
写真がヒントです。自民党本部(笑)
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