中国がついに、「一人っ子政策」に手を入れることを決心した。夫婦のどちらかが一人っ子であれば、子供を二人つくることを国民全体に認めることにしたのだ。
ここ数年、大きな会議が開催される度に話題になっていたが、その度に先延ばしになってきた。高齢化が急速に進んでいることから、少しでも早く手を打つべきだという圧力はずっとあったはずだが、ついに動かざるをえないところまできたというところだろうか。
今回、一人っ子政策の方向を修正するにあたって、中国政府はまず、約40年にわたる一人っ子政策実施の成果を高々と歌い上げた。もし一人っ子政策を実施していなければ、中国の人口はあと4億人増えたはずで、一人っ子政策のおかげで世界の人口が70億に達するのを5年遅らせた......というわけだ。
だが一方で、約40年に及ぶ一人っ子政策によって中国では、日本では思いもよらないような問題がいくつも起こっている。その一つが一人っ子を失った家庭、すなわち「失独家庭」の問題である。中国語では一人っ子のことを「独生子」と言うので、こういう名称になっている。
両親が若いうちなら「もう一人産む」という選択肢もあるかもしれない。だが、すでに高齢の場合、もう産めない事情がある場合など、両親はその後の生涯を子供のない状態で過ごしていかなければならない。
年金はあっても充分とはいえず、また高齢者の介護など「家族がやるのが当たり前」の段階にある中国では、老後は子供たちに援助を期待せざるをえないという親世代は少なくない。そして、その子供を失ってしまった「失独家庭」は、高齢になるほど貧困や生活の不自由に苦しむことになるのだ。
もちろん、子供がいるからといって必ず親の面倒を見てくれるわけではない。一般には日本よりよほど家族のつながりを重視する傾向がある中国でも、面倒を見るどころか家を出たきり顔も見せにこないような"子供"たちもたくさんいる。中国には、子供が巣立ったきり戻ってこないため孤独に暮らす親たちを指す「空巣老人」などという言葉すらあるのだ。
今年7月1日には、子供は親の面倒を見なければならない、金銭的に援助するだけでなく折々に会いにいかなければならないと定めた法律が施行された。どれだけ多くの子供たちが親の面倒を見ていないか、そして子供の援助なしに高齢者が暮らしていくのがいかに難しいかを物語っている。
ところで、「失独家庭」が「失独」となる原因の一端は政府にある。彼らが子供を一人しか作らなかったのは、国が法律でそう定めたからなのだから。
現在、中国では「失独家庭」に対する補償を行っている地方政府は少なくない。両親が一定の年齢を超えていれば、子供が亡くなった時点で一時金が出て、あとは死ぬまで毎月補助金が出るといった感じである。金額は政府によって異なるが、例えば北京では2008年から支給が始まり、女性55歳以上、男性60歳以上であれば子供が亡くなった時点で5000~1万元の一時金と、毎月200元の補助金を受け取ることができるという。年金と合わせて使うことができるわけだが、物価が上がり続ける昨今、ないよりましという程度ではないだろうか。
高齢化が進む中国では今後、「失独家庭」はさらに増えると見られている。2010年に行われた人口センサス調査の結果によれば、2010年の時点で中国の一人っ子の人口は2億1800万人に達し、15~30歳の間の死亡率は10万人あたり40人だったという。ある人口学者は、2億1800万人の一人っ子のうち1009万人が25歳以前に死亡する可能性があり、そうなると中国の「失独家庭」はあっというまに1000万世帯に達してしまうとしている。
「失独家庭」への補助金制度は、まだすべての地方で行われているわけではなく、行われていても充分とはいえない。そして将来、「失独家庭」の数は益々増えることが予想されている。一人っ子政策はすでに40年も実施されてきた。いまその方向が変わったとしても、その影響はこれから先もしばらくこの傾向は続く。中国政府の負担はまだまだ増加していくのである。
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Written by 劉雲
Photo by 中国、引き裂かれる母娘 -一人っ子政策中国の国際養子縁組の真実-
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