一昨年の4月、当時、都知事だった石原慎太郎はワシントンの講演会で爆弾宣言をした。
「日本人が日本の国土を守るため、東京都が尖閣諸島を購入することにしました」
この時点で、石原氏は地主から「都に島を売ります」という言質をすでに引き出していた。それだけに石原氏の表情は自信ありげだった。
石原氏の発言を受け、震災後鳴りをひそめていた尖閣諸島の問題が再び注目を集めるようになった。尖閣諸島の持ち主一族の代表として三男の栗原弘行氏がさかんにマスコミに登場するようになったり、東京都が「国による尖閣諸島の活用に関する取り組みのための資金」を募ったところ、振り込みが殺到したりした。
ところが、9月11日、意外な形で決着を見る。尖閣諸島のうち三島の国有化が決まったのだ。所有者のK氏には20億5千万円という大金が支払われることになった。「国に売ることはない」と弘行氏が再三言っていたにもかかわらずである。
なぜ石原氏が買えなかったのか。何人かの関係者に話を聞いた。
石原氏の側近であるH氏は口を開く。
「K氏は当初、20億円を提示してきました。『自分の不動産会社を通して民間契約を行いたい、その際3%の手数料を欲しい』と。私たちはK氏の負債は15億円程度だと調査で突き止めていました。だから20億と言われたとき、ずいぶん上乗せしているなという印象を持ちました」
つまりK氏が都に対してふっかけてきた、ということだ。
「私たちはK氏に伝えました。『財産価格審議会を通し現地調査を行わなければ価格決定が出来ません。あと民間の取引ではないので仲介手数料は発生しませんよ』と」
そういって都の事情を話して牽制した。
こうした食い違いはあるものの、4月の時点ですでに成約は近いとみられていたのだ。調整を重ねていけば話はまとまると、都側は考えていた。
「ところがね、途中からどんどん雲行きが怪しくなってきたんです。K氏と具体的な話に入っていかないんです」
それもそのはずだ。晩春ごろから国側、つまり民主党政権が国有化を狙い、K氏と接触を始めていたのだ。
Written by 西牟田靖
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