拘束されたジャーナリスト・安田純平さんの映像から読み取れる衝撃情報

2016年03月20日 シリア ジャーナリスト 安田純平 拘束

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 3月17日の朝、ジャーナリストの安田純平さんとみられる男性が英語でメッセージを話す映像が公開された。

(https://www.facebook.com/tariqcham1/posts/884438135006399)

 安田さんは昨年6月にシリア入国後に武装勢力に拘束されたとみられ、行方が分からなくなっていた。12月には、身代金要求のメッセージが「国境なき記者団」HPに掲載されたり、無事を伝えるツイートが友人のジャーナリスト常岡浩介氏からなされたりするも、年明け後は情報は途絶えていた。

 その常岡氏がグルジアやアフガンなどで拘束され、忘れた頃に生還し、安堵する――といった経験を、僕は今までに何度もしている。そのためなのか。知人の安田さんが拘束されたという第一報を聞いたときも、比較的に冷静にいられた。その後はその後で、頭の隅で彼のことを心配し、続報にアンテナを張りつつも、自分は自分で日常生活を丁寧に送るよう心がけてきた。

■映像を見た

 1分13秒の映像。以下がその全文訳である。

「こんにちは。私はジュンペイ・ヤスダです。そして、今日は私の誕生日、3月16日です」

「彼らが、話したいと思うことを話していいと言い、これを通して、誰にでもメッセージを送れると言いました」

「私の妻、父、母、兄弟、愛しています。いつもあなたたちのことを考えています。あなたたちとハグし、話したいです。でも、もうできません。ただ、気をつけてと言うしかできません」

「私の42年の人生はおおむね良いものでした。とくに、この8年間はとても楽しかったです」

「私の国に何かを言わなければなりません。痛みで苦しみながら暗い部屋に座っている間、誰も反応しない。誰も気にとめていない。気づかれもしない。存在せず、誰も世話をしない」

 壁の白い窓のない、どこなのかわからない部屋で、彼らしき人物がぼさぼさの髪、ぼさぼさのひげという出で立ちで、親指をせわしく動かしながら、英語のメッセージを早口で読み上げている。一節読むごとに男性はカメラの方をじっと見つめている。表情に柔和さはなく、それでいて悲しみや絶望といった感情は読み取れない。伝わってくるのは、強い緊張感と精神的な疲労、生き抜くんだという強い意志である。強い意志については、殺害直前の映像で見た後藤さんの眼差しにも感じたことである。

 誕生日のこと、男性の人相、そして声からして本人に間違いない。というか本人でないとすると、空爆下の反政府支配地域で、これほどのそっくりさん、しかも東洋系の人物を見つけてきて、話させることはほとんど不可能だ。

 一方、これがいつ撮られたのかということについては、3月16日だとにわかに信じることはできない。誕生日直後に発表することを前提に、前もって撮影した可能性もあるからだ。場所もよくわからない。もしかすると、上空から空爆が続いていたり、居所をしょっちゅう変更させられたりしている可能性だってあり得る。安心したのは彼が極端に痩せていないことだ。おそらく十分な食事を与えられているのだろう。

 話す内容面で、気になることはふたつ。

「あなたたち(家族)とハグし、話したいです。でも、もうできません」

「私の42年の人生はおおむね良いものでした」と、解放を諦めているような発言をなぜするのか、ということ。そして、「私の国に何かを言わなければなりません」に始まるくだりの意味の取り方についてである。日本政府の解放交渉を望んでいるようにもとれるし、日本政府の反政府勢力への冷たい態度に対しての不満を述べているようにも聞こえる。

 この二つの発言、彼が自身の解放を望んでいるとしたら整合性がとれない。彼が勢力の一員としてこれからも振る舞うことを覚悟しているのだとすれば、この発言が日本政府の反政府勢力への配慮を希望する、という意味にとれ、整合性が出てくる。でもそんなことはあり得るのだろうか。そもそもこの発言、安田さん自身の言葉なのか。そうだとすればなぜ日本語ではないのか。それとも単に反政府勢力の言葉を代弁しているだけなのか。判別ができない。

■投稿した人物のこと

 投稿したのは、タリク・アブドゥル・ハク(30歳)というシリア在住の人物である。毎日新聞がその男性にさっそく直接取材を成功させた。以下、記事から一部抜粋し、安田さんの発言の意図を考えてみる。

https://www.facebook.com/tariqcham1

「映像を投稿したシリア人は取材に『安田さんの解放交渉に関与しているヌスラ戦線関係者から入手した』と説明。ヌスラ戦線側は当初、映像を15万ドル(約1700万円)で日本メディアなどに売ろうとしたが、買い手がつかず、解放交渉の端緒として日本政府などに安田さんの安否を知らせるために映像の公開に同意した」

 シリア政府軍は反政府勢力に対し容赦ない攻撃を加え、それをロシアが空爆して援護するということがずっと続いている。それに対しヌスラ戦線は、安田さんを「人間の盾」として利用したり、彼に抗議させたりするためずっと拘束しているのかも、と推測していた。それはお金抜きの話だと、常岡さんらの情報から勝手に思い込んでいた。それだけに、映像を大金で売ろうという、ある意味生臭い話が出てくるとはまさか思わなかった。

 日本政府はいったいどうするのだろうか。選挙が近いだけに安倍政権も安田さんのことを放置して置けず、裏交渉に本腰を入れるのではないか。安田さんの解放を勝ち取り、それを政治利用するような気がする。それとも、12月のとき同様、しばらくは続報がなく放置されるのだろうか。

■人質交換の可能性について

 3月17日の夕方、ここまで書いた。その後の午後10時すぎ、読売新聞がネット上に気になる記事を掲載したので、以下、その記事の抜粋とそれに関しての感想を追記して締めくくりたい。

http://www.yomiuri.co.jp/national/20160317-OYT1T50153.html

 まずは記事の抜粋である。

「投稿者によると、動画の撮影日は16日。ヌスラ戦線は日本政府との交渉を望んでいるといい、投稿者は「交渉の余地がないと見切れば、安田さんを(イスラム過激派組織)『イスラム国』との人質交換に使う可能性もある」と語った」

 これが本当なら、後藤さんや湯川さん同様の目に遭う可能性もある。安田さんが、後藤さん同様、強い意志を感じさせる彼の眼差しをしていたのは、殺害の恐怖に必死に抗っているからに違いない。帰ってきたら、知り合いみんなで彼の帰還を祝う、飲み会などをやれればと思っていたが、事は思っていたよりずっと深刻であるらしいということがわかり、書いている今、ショックを受けている。

Written by 西牟田靖

Photo by Facebookより引用

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本で床は抜けるのか

人命を優先するために。

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