▲今年のGW、常岡宅を訪問。羊肉の塊を持参し二人で食べた。
17年来の付き合いであるジャーナリストの常岡浩介が10月6日にガサ入れを受けた。撮影機材やパソコン、携帯電話などを持って行かれたという。彼はいままでアフガンで半年ほど拘束されたり、モスクワで一週間、取り調べられたり、拘束中にデング熱にかかったりしている。また、最近ではエボラ出血熱が流行している西アフリカへ行った後、シリアのイスラム国へ出かけたりと、今までの過酷な体験に懲りずにガンガン出かけていた。
このように彼が危ない橋を渡って取材を続けていたからといって、いきなりガサ入れを受ける筋合いはない。今後、秘密保護法の施行を前にジャーナリストの動きを国は封じるつもりなのだろうか。いったいどういうことなのか。ねぎらいがてら電話して、事情をきいてみた。
ーーガサ入れはどんな様子で行われたの?
「10月4日の午後4時半頃、公安部外事三課の7人がうちにやってきた。警察の手帳を見せるので『何事ですか』って驚きながら言ったら『家宅捜査令状が出ている』と言われた。令状を見せてもらうと被疑者の名前が北大生の名前になっていて僕の名前がない。罪名は私戦及び陰謀。僕の名前がないということより、私戦及び陰謀で警察が動いたというのがびっくりした。家宅捜索の内容に関して、令状のページをめくったところに、『この事件の捜査のために常岡の自宅を捜索し、パソコンや航空券などを押収する』という内容で書いてあった。そう書いてあると自分の事件じゃなくても拒否できないことになる。
『これから作業しますけども私たちを撮影したり録音したりすることはできません』と言って、身体検査をしてきた。猛烈な勢いで自分たちが逆取材されることを恐れていたみたい。捜査員は全員男。若いのは30歳のようだったし、親分は警部。所轄の警察でもないということは、完全に国家警察として動いてる。最初に言われたのが家宅捜索令状。家宅捜索をしつつ、任意で同行をお願いしたい、とも言われた。
任意同行については『ガサ入れが単なる取材妨害であるので、こちらから協力することはありません。必要があれば逮捕して正式に取り調べして下さい』と言って拒否した。
彼らは夜8時半ぐらいまでいて、ラップトップ2台にタブレット1台。スマートフォンと携帯は、使ってない古びたものまで合計7台ぐらい、段ボールに入れて持って行かれた。その中には、僕がリビングで荷作りしていた機材もあった。ガサ入れの翌日出発の予定だったので、妨害する気だったんでしょう」
ーーそもそもなんで出発する予定だったの?
「イスラム国で拘束されている湯川遙菜さんに会いに行こうかと以前から計画していた。そしたら10月4日に北大生と会ったとき、同じ日に出発するってことを告げられたんで、じゃあ彼に同行するかと。彼に同行するためにシリア行きを決めたわけではない。だから公安には『デジカメとかビデオカメラは北大生がイスラム国へ行こうとしていたことに直接の関係がない。あなたたちがやっているのは完全な取材妨害です』って家宅捜索に抗議したよ」
ーー今後、逮捕されるとしたら?
「北大生の共犯となるのかなあ。あと全然関係ないネタを持ってくるかもしれない。僕のハードディスクを持って行ったから。何入ってるか記憶にないけどね」
ーー学生とはどうやって知り合った?
「Oという怪しい人物が『シリアで求人募集』と書かれたチラシを悪ふざけでつくった。それを北大生がアキバで見て、電話した。するとその怪しい人物Oがイスラム法学者の中田考先生へ。中田先生はまったく冗談の通じない人なので、僕へ『シリアで戦いたいという学生がいるので取材してもらえないか』とわざわざ連絡してきた。それで北大生とは3回会った。8月初めに2回と10月4日。8月の2回目にVTR回してインタビューした」
ーー学生はどんな人?
「イケメンでしゃきしゃきしてて普通に話すとまとも。北大の大学院生で26歳。数学を研究してたはず。彼にインタビューすると、『もともとシリアにもイスラムにも、あるいはイスラム国にもイスラム革命にも全く関係関心もなく、今も関心がない。日本でない別の常識がある場所へ行きたい』と。
シリアにわざわざ戦いに来たりボランティアに来たりする人はシリアのことが気になってしょうがないという人たち。北大生がシリアに全く関心がないというのが意味不明。彼は結局、シリアが破滅的な場所というイメージでとらえて、その場所を自分の自殺願望か破滅願望の舞台装置として使いたいというだけの人だよ」
***
常岡はいままで何度も拘束されるという常軌を逸した経験の持ち主である。それだからか、今回のガサ入れについても、「機材がいつ返ってくるかわからない」と言いつつも悲観せず、厚かましいぐらいに毅然と行動している。ガサ入れを受けた翌日からは、マスコミ取材を積極的に受け、自分が不利にならないように立ち回っている。彼はいわば、それこそRPGで言えば防御力最高のモンスターのようなものだ。命の危険を顧みずあちこちに出かけ、そこで培った危機管理能力があるからこそガサ入れにも動じないってことなのだろう。
一方、トラブルに巻き込まれマスコミ対応を受ける彼は、毎回余裕しゃくしゃくで、トラブルそのものをおもしろがっているようにすら見える。もしかすると、取材そのものよりも、注目を受けることそのものが目的なのかもしれない。圧倒的な取材経験があるにも関わらず、本を書いたり記事を書いたりして発表するまでにいつも至らないのは、注目されることで満足してしまうからではないだろうか。
発表もしないので儲からない。彼はいつも自分のことをビンボーだと称し、国内にいるときはいつも最愛の猫を抱っこしてぬくぬくと引きこもっている。
それはともかく、今後、秘密保護法案が施行され、ジャーナリストに風当たりが強くなっても彼は態度を変えないのだろう。だが、彼の動じない態度、トラブルをおもしろがり注目されることに満足しているような行動っぷりが、いつまで通じるのかは不明である。それこそ今回のガサ入れが彼の人生を破滅に追いやるプレリュードにならないとも限らない。そうなった場合は、猫の面倒ぐらいは見てやっても良いが、それ以上はたぶん責任が持てないだろう。
※常岡へ
友人のよしみで気安くあれこれ書いてしまったが貶めるつもりは全くない。それどころか困難に負けずこれからますます活躍することを願っている。がんがん発表して儲けまくった暁には何かごちそうしてちょうだいね。よろしく。
Written Photo by 西牟田靖
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