東京からそれほど遠くない銚子で見た現実
日本一の水揚げ量を誇る銚子漁港の近くに、昭和風情ただよう古いスナック街があります。夜が更けると、路地裏には露出多めの服を着た女性がちらほら。地元のおじさんによると「このへんはガイジンの店ばっか」だそうで、とくに中国人とタイ人が多いそうな。
適当に目についたスナックに入ってみると、店員はみな中国人でした。横についたのは、ぽっちゃり体型で愛嬌たっぷりのオウさん(26歳)。若いのに肝っ玉かあさんのような貫禄があります。日本には「お金を稼ぎに来た」という彼女、日中は漁港の近くにある水産加工場で働いているそうです。
「中国では給料2万円だったけど、日本はもっと稼げるでしょ。だから来たよ。でも工場の給料は安い!」
彼女は店が終わったあと、そのまま......
技能実習生として日本の技術を学ぶために来日したものの、実習生の立場ではどんなに頑張っても月7~8万円しか稼げないので、夜のバイトが欠かせないそう。
外国人技能実習生が実習以外で報酬を得るのは違法ですが、実習生の中には彼女のように「出稼ぎ」目的の人も大勢います。
2015年以降、毎年5000人以上の外国人が実習先の企業から失踪しているという事実が、そのことを如実に物語っています。
次に入ったのは、タイ人スナック。色白の中華娘の次は、褐色の南国娘です。途中、道端で声をかけてきた子はモンゴル人でした。アジア好きの人にはたまらないネオン街だと思います。
話し相手は、タイ東北部から来たというTさん(33歳)。やけに色っぽく、胸元のぱっくり開いたドレスから豊満な胸がはみ出しています。
「あなた、銚子の人じゃないでしょ」とすぐにヨソ者とバレてしまいましたが、オープンな性格のようで、いろんな話を聞かせてくれました。
タイ東北部の貧しい家の長女として生まれたTさんは、家族を助けるために18歳でバンコクへ働きに出たそうです。
「わたしは5人きょうだいの長女だから、家族のためにお金を稼がなきゃいけなかったの。でも、勤め先の縫製工場の月給はたったの1万円で、ろくに仕送りもできなかった。だから、夜は日本人相手のカラオケクラブで働きはじめたの」
タイのカラオケクラブは基本的に「連れ出し」ができる売春施設です。Tさんもそこで初めて売春を経験したといいます。そして、さらに稼ぐために日本行きを決意。
「カラオケで知り合った友達から、日本に行けばもっと稼げるって聞いて、23歳のとき、450万円の借金をして日本に来たの」
以来、約10年間にわたり、千葉や茨城のスナックを転々としてきたTさん。ビザについて聞くと、「オーバーステイに決まってるでしょ」とあっさり。不法滞在を続けているけれど、摘発に遭ったことは一度もないそうです。なんという強運の持ち主。
「借金は返し終わったし、タイに家も建てたから、本当はもう帰りたいよ。でも、バンコクにいる娘がまだ大学生でお金がかかるから、もう少し頑張らないとね」
このスナック街では「連れ出し」に応じるホステスもいるとの噂がありますが、Tさん自身は「もうエッチな仕事はしてない」とのこと。
とはいえ、彼女は話をしながら、しきりに私の股間を撫でたり、胸を押しつけてきたり......。その姿態は単なるサービスとは思えないほど艶かしく、現役感がぷんぷん漂っていました。
翌朝、漁船でにぎわう港へ行ってみました。
水産加工の工場を覗くと、冷気のなかを動きまわる労働者の姿が見えます。重そうなダンボールを運ぶ男性も、包丁で魚の内臓を掻き出している女性も皆、アジア系の外国人たちです。
日本の若者がやりたがらない3K労働であっても、彼らにとっては人生を好転させるチャンスなのでしょう。きつい作業を黙々とこなしています。
都会にいては見えない、これが地方のリアルなのです
都会にいると気づきませんが、地方には過疎化、高齢化が進み、外国人に頼らなければ地域の維持すらおぼつかない町もたくさんあります。
銚子で目にしたのは、人口減少社会に入ったこの国のリアルな姿でした。アジアからやって来た外国人が、昼も夜も、ニッポンの底辺を支えているのです。
2018年2月7日、千葉のローカル紙『千葉日報』に、「銚子、不法残留のタイ人10人逮捕」と題する記事が掲載されました。
記事には、逮捕されたタイ人は、「銚子市田中町のスナックでホステスとして働いていた」とあります。まさに私が訪れたスナック街のことです。
Tさん、大丈夫かな......。(取材・文◎霧山ノボル)
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