6月18日の大阪北部を震源とする震度6弱の揺れは、女児を含む死者3名、インフラの遮断など、"地震慣れ"している日本人に改めてその恐ろしさを痛感させた。
現地でその影響が続いているのはもちろん、南海トラフ地震など来るべき大震災との関連も取りざたされているが、ことを風俗店などが密集する繁華街に置き換えた場合、残念ながら実に危うき状態にあると言わざるを得ない。象徴的な地域が東洋一の繁華街・歌舞伎町を抱える新宿だ。
今年3月に東京都都市整備局が公表した「旧耐震基準」準拠の建造物で、震度6強以上で倒壊する恐れがある建物のなかには、老舗書店「紀伊國屋書店新宿本店」とともに、歌舞伎町の旧ランドマークと言える「ヒューマックスパビリオン新宿歌舞伎町」、通称・ヒューマックスビルも含まれていた。このヒューマックスビル(旧ビル名はジョイパックビル)は単なる歌舞伎町の一社交ビルというだけでない。筆者のようなディスコ世代には必須だった「ニューヨークニューヨーク」があったビルであり、また一階にはテレホン喫茶の先駆け「マジソン」が鎮座していた。文字通り、新宿の若者文化を支える柱でもあったのだ。
その旧若者文化の象徴が、今回の大阪北部を襲った地震からワンフェイズ上の揺れで倒壊の可能性がある......というところに、歓楽街が抱える脆さが露呈している、と言えよう。
しかしながら、本当の問題はヒューマックスビルや紀伊國屋ビルのような資本力のある企業ではない。これらのビルは整備局の公表以降、おそらく耐震を含めた対策をさらに整備するなど、なんらかの対応策を取っていることであろう。本当に危ういのは、これらのビルと同時期に建設された社交ビルに入居する、風俗店などの小規模テナントなのである。
歌舞伎町ビル火災の惨事を繰り返すな
これら風俗店の特徴として、地下あるいは二階などに店舗(プレイルーム)を構え、入り口なども一方向からのものが多い。これは、風俗という特性から客や社交(女の子)たちが目立つの嫌うということも理由に挙げられるだろう。
また、84年の改正風営法以降、店舗の大幅改装などが難しくなったこともあり、例え店側が耐震などの改善をしたくても、できないというジレンマもあるのかもしれない。
それでも以前、ソープランド街が歌舞伎町に存在した頃は比較的大箱が多く、出入り口も表裏と二か所以上あって客や従業員もそれをしっかり認識していた。が、現在の風俗店の場合、非常口があったとしても(なくてはいけないハズだが)、避難誘導をすべての従業員に周知徹底しているかというと、正直「?」もつく。
実際、91年に起きた歌舞伎町ビル火災では、火元とみられる3階の賭博ゲーム店の死者はみな客であり、助かった3人は従業員であった。違法賭博と届出を出した風俗店を一緒にするのはいささか乱暴だが、そのくらい従業員教育の有無が生死を分かつ、ということなのだ。
日本列島に住む以上、地震から逃れられることはできない。ビルの耐震・免振対策は所有者の仕事だが、風俗村もそろそろ「いざ」というときの最低限の対策を取らなくてはならないだろう(もちろん歌舞伎町に限ったことではない)。そうでなければ、最悪の自体が起きたとき、風俗村自身への大批判として跳ね返ってくるからである。(取材・文◎鈴木光司)
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