全く地元の視聴者のためにならない
ヘリからの空撮映像
大阪北部を中心に強い地震が発生した2018年6月18日、各放送局が地震の状況を伝えるべく放送したのはヘリからの空撮映像でした。予定されていた番組内容を変更してまで延々と流され続ける空撮映像。どの放送局も似たような空からの映像を延々と流し続けていました。
毎日放送、ABC朝日放送、関西テレビ、読売テレビ、そしてNHK。被災地・大阪の地元放送局であるにもかかわらず、地震発生後すぐに各局はヘリを飛ばしていたのです。
ヘリからの空撮映像など主な被災者である大阪府民は全く必要としておりませんし、恐らく放送する側の放送局だってそんなことは百も承知のはずです。
それでもヘリを飛ばし続けるのは、日本の殆どの放送局がネットワークを形成しているためです。
テレビ東京を除くキー局4局(日本テレビ、テレビ朝日、フジテレビ、TBS)、そしてNHKの5局は全国各地に系列局を従えています。ネットワークを形成する大きな目的の1つは、事件・事故・災害の際に地元局から現地の映像を送り込んでもらうことです。
ヘリからの映像を各局が撮りたがるのは地元の放送エリアのためではなく、現地の被害状況をリアルタイムで全国に伝えるためなのです。
ちなみにテレビ東京についてはネットワーク局が他局と比べて圧倒的に少ないこともあり、他系列とは違って速報性を重要視しない報道の方針をとっています。テレビ大阪はそんなテレ東系列であるので、他の大阪局のようにヘリを飛ばさなかったのです。
どんな空撮映像よりわかりやすい
茨木市駅の案内表示板の写真
災害時のヘリの使用は23年前の阪神・淡路大震災でも問題視されました。ヘリの騒音のせいでガレキの下からの助けを求める声が聞こえなくなるからです。今回の震災においても同じ理由からヘリを直ぐに飛ばすべきではないはずです。
更に地方局は地元住民のために信頼できる情報を発信すべきであり、そういう意味でも空撮映像を地震発生直後に流すことは今すぐ止めるべきです。
しかも23年前と違って今の時代、SNSを活用すればテレビより遥かに早く情報を得ることができます。
阪急茨木市駅の案内表示板が落下している写真がTwitterにアップされてリツイートによって拡散されていた頃、テレビは何の映像も伝えられていなかったのが何よりの証拠です。
結局地震の被害の大きさを素早く、最もわかりやすく伝えたのはTwitterにアップされたあの写真だったのではないでしょうか。
ネットワークを形成することによってテレビの報道が得た速報性はインターネット、SNSの登場によっていとも簡単に崩されました。
ただしSNSは一般の方の投稿によって成り立つコミュニケーションツールですから、報道機関であるテレビ局には信頼性という点で大きく劣ります。
だからこそ視聴者、特にSNSに慣れ親しんだ若い視聴者がテレビに求めるのは信頼のおける情報の発信なのです。
そのような現状であるにもかかわらず全国に向けてヘリからの中継映像を流しているのですから、徐々に落ちつつある信頼性をテレビは今後更に落とすことになるでしょう。地元住民のためになる信頼できる情報を発信すること、災害時に地方局に求められるのはこれだけです。
ヘリを飛ばさなかった関西の放送局
テレ東系列のテレビ大阪、そしてサンテレビ、KBS京都等の独立局については空撮のために地震発生直後にヘリを飛ばした様子はありませんでした。とはいえこれらの局はそもそも飛ばす飛ばさない以前に"飛ばせない"放送局でもあります。
常に災害に備えてヘリを飛ばせる体制にしておくにはそれなりのコストがかかるので、テレ東系列、系列に属さない独立局には4大ネットワーク(日テレ系列、テレ朝系列、フジ系列、TBS系列)のような対応は考え方云々以前に不可能なのです。
阪神・淡路大震災で大きな被害を受け、今でも地震に関する報道にかなり力を入れているサンテレビ(兵庫に拠点を置く、兵庫・大阪全域を主な放送エリアとする独立局)ですら系列局と比べると地震報道はあっさりしていました。
9時台と11時台は丸々特番を流しましたが、その間の10時台は何と通販番組を通常通り放送していたのです。
10時になった途端に、緊迫感のあるサンテレビのスタジオから山田邦子がやかましくしている痛快!ショップ島のスタジオに切り替わったのを見たときはズッコケそうになりましたが、厳しい台所事情の中なんとか特番を差し込んだ熱意は伝わってきました。
また特番の内容自体も地震の際に注意するべきことをアナウンサーがただ呼びかけたり、地元・兵庫の公共機関の情報を主に伝えるという地味なものでしたが、地元の視聴者に伝えることを意識した内容は地方局のあるべき報道姿勢です。
大阪の地元局にもかかわらずあまり特別編成を実施しなかったテレビ大阪ですが、全国で最も地震について取り上げている放送局であろうサンテレビと比べるのは酷ではあります。今後は地元局ならではの細かな情報を追い続け報道してくれることを期待します。
ヘリを"飛ばせない"放送局と思われるのか、"飛ばさない"放送局と思われるのかはこれからの報道次第ですが、"飛ばさない"という姿勢でいてほしく思います。
決して視聴率が高いとは言えないヘリを"飛ばさなかった"放送局ですが、数字に見えない信頼は視聴率以上に獲得しているはずです。
視聴率にあぐらをかいている系列局はいつか手痛い目に遭うことでしょう。(取材・文◎サンライズ猥戦)
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