「クレージー・ランニング」が生んだ万引きマラソンランナー 原裕美子が苦しんだ過酷な体重制限

2018年12月06日 マラソン 万引き 原裕美子 実業団 恋愛 陸上部

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 窃盗症(クレプトマニア)、衝動的に万引きを繰り返す精神疾患。
 かつて、女子マラソンで一世を風靡し、世界陸上選手権の代表選手でもあった原裕美子36歳が、現役時代から窃盗症と診断され、万引きを繰り返し、引退後もその疾患から逃れられず再犯、その判決公判が12月3日、前橋地裁太田支部で開かれ、原被告に懲役1年、保護観察付き執行猶予4年の判決が言い渡された。

「窃盗症」、聞き慣れない言葉が突然メディアに喧伝された。メディアはいつも、キャッチコピーだけが独り歩きする。

 窃盗症の明確な定義はないという。しかし、万引きを繰り返し始めた直接の原因は、原裕美子にはあった。厳しい体重制限による摂食障害である。

 原は、高校卒業後の2000年に実業団の京セラに入社する。そして、実業団陸上部における過酷な体重制限の実態を語った。

「一日に4回から6回体重測定があり、監督の前に座らされ、(カロリーを計算された食事にもかかわらず)これは食べちゃダメだ、これは半分残しなさい、などと指導された」

「食べ吐きすれば、そのつらさがすこし和らぐ。食べ吐きをやめたら、また体重管理で怒られると。そういうつらさから逃れるために、どんどん食べ吐きがひどくなって、万引きしてしまった」

 実業団の女子陸上部の多くでは、体重管理は日常的に行われ、時にそれは度を過ぎた人権を無視した状況もあるという。

 ここで、女子選手と監督の関係を見てみる。独占、嫉妬、気を引く、これらは一般的に女子選手に譬えられる感情表現といわれる。その中で女子選手は、監督に気に入られることを前提にした行為に陥る。
 気に入られることは、監督の言われるままに行動することである。そこに疑問を挟む余地はない。監督もそういった女子選手の感情を巧みに利用しつつ、選手同士を競わせ成果を上げようとする。勝利至上主義の中で選手は弄ばれるのだ。高校を卒業したばかりの女子選手に何が出来るというのだろうか。そこには妄信しかない。

 こういった体重制限によって、女子選手には摂食障害だけでなく、無月経や、骨密度の低下によりケガに苦しむ選手も多い。

 あるランニングのシンポジウムで、元女子ランナーが語る摂食障害の光景が忘れられない。それは、チームメイトと電車に乗った時だったという。

「彼女は体重制限を受けていて、傍目にも、もうガリガリといってよい程痩せていました。ところが、その彼女が突然電車の中でスポーツバックを空けると、パンを取り出し食べ始めたんです。その時の表情というか状況が凄かったんです......。同じ電車に乗っていた女子中学生の子たちが驚いた顔で見詰めていたのが‥‥‥、忘れられないです」

 実業団の女子選手が鎖された合宿所の中で、日常的には、走るためだけの体のケアをし、監督、コーチに言われたスケジュールをこなす。
 その中で何が育てられるのだろうか。精神的にも未熟な年齢である。多様な人々と接することこそが彼女たちを育てる。しかし今日、こういった体重制限だけでなく、未だに恋愛禁止という実業団チームもある。

 かつて、リクルートランニングチームで高橋尚子などを育て、その後、原裕美子が所属したユニバーサルエンターテインメントの小出義雄監督は、恋愛について『世界的ランナーを目指すならしばらく恋はお預け』と題し、こう書いている。


 (前略)ランナーとしての夢を叶えることと、恋を成就させることを同時に願っても、なかなか無理というものだ。人間、二兎を追うことはできないと覚悟したほうがいい。(中略)
 (前略)私のクラブは(中略)高い目標を掲げ、勝負にこだわりながら、ランナーとしての大成を目指すクラブなのだ。世界を目標にする人間たちの集まりである。どんな恋も奨励するわけにはいかない。(中略)
 ランナーが真に世界を目指せるのは、人生のほんの限られた一時期でしかない。生活を、青春を、すべてこの一点に投げうつ覚悟の強者が、世界中から集まってくる。少しでも甘さがあれば彼らには勝てない。チャンスは一度きりであり、それを逃がしたら、二度と巡り合うことはないのだ。
 しかし、恋は違う。ほんの一時期だけ、恋には目をつぶったとしても、素敵な恋に出会うチャンスはまたいくらでもある。


 この小出監督の言葉を笑止千万な言い草と否定するのは簡単だ。しかし、今日の日本のスポーツ界は未だ、この言葉を前近代的な妄言とは捉えない環境にある。

 今年に入って、日大アメリカンフットボールから始まった、パワハラ、セクハラ騒動、しかし、この国のメディアは、決して事の本質に迫りはしない。一過性の出来事として目を瞑る。こういった現象は2020年の東京オリンピックが終るまで繰り返すだろう。(文◎高部雨市)


あわせて読む:病気なら万引きしても仕方ないのか 元マラソン選手・原裕美子さんの判決公判に裁判傍聴人が感じること

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