慶大生がLINE「死んでくれ」で逮捕、自殺教唆事件を読み解く by渋井哲也

2014年02月26日 LINE 慶大生 自殺教唆

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linetaiho.jpgネット上に出回る「最後のやりとり」といわれる画像。

 LINEで「死んでくれ」とメッセージを送り、自殺をそそのかした疑いで、大学生(21)が逮捕された。亡くなったのは交際していた女子学生(21)で、LINEのやりとりの後で、自宅マンションから飛び降りた。大学生は認めている。検察庁は身柄の拘留を求めたが、東京地裁は認めず、釈放された。

 報道によると、自殺教唆の疑いで逮捕されたのは慶應大学法学部3年生。無料で通信やメッセージが送れるアプリ「LINE」を使い、交際していた女子学生(当時21)に「お願いだから死んでくれ」「手首切るより飛び降りれば死ねるじゃん」などとメッセージ7通を送信した。その後、9日午前5時ごろ、女子学生は東京都港区の自宅マンション8階から飛び降りた。女子学生は男からのメッセージを見た後、友人に「死にます」と送信。両親宛ての遺書もあったという。

 亡くなった女子学生のTwitterがある。その書き込みを読むと、私が取材をしてきた生きづらさを抱えている若者たちを連想させる内容だった。そのため、書き込みから彼女の心理を読み解こうと思った。

 最後の書き込みは13年11月9日午前4時50分14秒。

「みなさま、よき倫理を!」

 なぜ倫理だったのだろうか?

 その10分前の午前4時40分59秒には、「ありがとう」とつぶやいていた。また、前日午後9時58分46秒にも「それでは皆さん、善き人せを」。「人せ」は「人生」の誤りか? その一時間半ほど前の午後8時28分35秒には、男が送って来たLINEのメッセージをキャプチャーした画像をあげている。

 このTwitterによると、逮捕された男と7日に別れた、との書き込みをしている。そして、新しい彼氏ができ、その彼氏と心中未遂をした。そのときに血に染まったシャツの写真をあげている。彼女はときおり、自傷行為の後の写真をあげている。

 自傷行為後に写真をアップする行為は、2000年代初頭に、ブログが流行り始めたころから、メンタルヘルス系サイトの運営者には見られた。その後SNSでも同じように写真をアップする行為が見られたが、SNSではこうした行為がタブーとなり、運営者に通報されると削除されるといったことが続いていた。こうした流れはTwitterやLINEでも見られるものだ。その意味では、珍しい写真ではない。

 心中未遂をした相手となぜそこまでの共鳴があったのかは記述がない。しかし、ネガティブな情報は心理的に感染することは言われている。とはいえ、心中未遂をする関係となれば、相手もある程度、死への指向性があったのではないかと思える。自殺願望のある人の中には、ネット上で知り合った人と一緒に死にたい人もいる。「ネット心中」はその一例だ。

 彼女はある日、境界性人格障害だとつぶやいている。境界性人格障害=自傷行為をする人、というわけではないが、セットで語られることも多いことは事実だ。そのためか、自傷行為をしていると話しただけで、精神科医に境界性人格障害と診断された、という話もよく聞く。境界例とも呼ばれていた。神経症と精神病の境界の症状のためにそう呼ばれたのだ。アメリカ精神医学会の診断基準DSM-4によると、 以下のうち5つかそれ以上が存在すると認められると診断される。

1)現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力(注:5.の自殺行為または自傷行為は含めないこと)

2)理想化とこきおろしの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係様式

3)同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像または自己感

4)自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、むちゃ食い)(注:5.の自殺行為または自傷行為は含めないこと)

5)自殺未遂、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し

6)顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらだたしさ、または不安)

7)慢性的な空虚感

8)不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)

9)一過性のストレスに関連性した妄想様観念または重篤な解離性症状

 つぶやきには「境界性人格障害」と診断されていたとみられるものがあった。わかりやすく言えば「さびしんぼう」「かまちょ」な人だが、その極端な例であり、不安定で、ときには相手をコントロールするあるいは相手にコントロールされたする。性的な自傷行為もあり、性暴力の被害者になりやすい。ただ、ときおり、ある種の能力を持っている人がいる。彼女の場合、メンヘラの総合雑誌を作ろうとして、仲間を集めていた。生きていれば、興味深い展開になっていたかもしれない。

 境界性人格障害に限らず自傷行為をする人は、自傷行為の競争に走ることがある。いつからしているのか、どうやって知ったのか、道具はなにか、どのくらい深くしたのか、見せ方はどうなのか.......。メールで自傷をしたことを送ったり、リアルタイムで自傷をしたことをつぶやいたり、音声チャットで報告したり、または生配信をする。彼女も写真はアップしたが、ツイキャスで首を切っている動画を配信したとのつぶやきもあった。まさに、見せ方競争だ。

 もちろん、自傷行為はそれだけでは死なないことが多い。が、身体的には死にやすい体になったりする。また、精神的にも「死」をイメージしやすくなる。亡くなる前日、新たな彼氏と心中未遂をしていることから、この段階では「死」の方向に向いている。そんなときに、元カレからの自殺をほのめかすメッセージを見たら、「死んでやる」と思っても不思議ではない。ある意味で反発であり、復讐なのかもしれないとも思ったが、真意はわからない。

 ただ、こうした自殺教唆は、メンタルヘルスに悩み人たちのネットコミュニケーションではよくある。そして、その後に、見せつけるためだったり、復讐心から激しい自傷行為をしたりする。前日の心中未遂さえなければ、彼女も激しい自傷行為で終わったかもしれない。ただ、マンションの8階から飛び降りる行為がそうだったのかもしれない。だとすれば、自殺の強い意思があったのかどうかは疑わしい。が、彼女の口からそれを聞くことはできない。

Written by 渋井哲也

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