滋賀県近江八幡市で11月24日、中学3年生の女子生徒(14)がマンションの敷地内で倒れていることが見つかった。生徒は約3時間後、搬送先の病院で亡くなった。このニュースが流れた後、ネットでは、動画サイトのFC2で配信をしていた人物と同じではないかと話題となった。新聞やテレビでは関連を報じなかったが、週刊ポストの記事が流れると、同一人物だと確認できたことで注目が集まった。
自殺の実況中継は、かつては文字ベースではなされていたことがあった。2ちゃんねるなどの匿名掲示板やチャットルーム、または電話、メールでのリアルタイムな報告があった。実際に亡くなったと思われる人もいた。私の取材相手でもそうした実況をした人がいた。しかし、最近ではスマートフォンや動画サービスの普及で、動画での配信までなされるようになってしまった。
アクセスを稼ぐための方法だけなく、かまってちゃん的なコミュニケーションも見られる。孤独を埋めるための癒しとして配信する人たちも見受けられる。ただ、中には、ユーザーには亡くなったことを知っていてほしいとの思いもある。今回のように実際に亡くなったユーザーもいるからだ。
2009年11月、スティッカムTVで動画配信中の、24歳(当時)の女性が飛び降り自殺を図った。飛び降りたのは自宅マンション。うつ病と診断され、会社を辞め、精神科病棟で入退院の繰り返しだった。その後、通報が入った警察官がマンションの部屋に入り、遺書らしきメモを読み上げるなど無線で状況を伝えていることも配信されていた。警察の会話は次のようなものだったという。
「かわいい子だったらすぐ病院行くけどな」
「キモチワルイですよね」
「音声まで入ってないだろうな」
その後、病院から配信がなされたとの情報もあり、未遂だったようだ。
2010年11月、仙台市在住の24歳(当時)男性が動画配信サービスUstreamで首つり自殺を配信した。2ちゃんねるの大学生活板で「来週自殺します」とのスレッドを立ち上げ、自殺予告をしていた。配信中は主に2ちゃんねるのユーザーと会話し、マンションのベランダで首つりをしている動画が配信され続けた。この男性はナンパブログも開設していたが、ナンパが成功しないことが悩みの一つだったようだ。就職後、うつ病になったようで、そのことも配信で話していた。
2012年5月、北海道在住の18歳(当時)の男性は自殺する直前まで、Ustreamで動画配信していた。また、その直前まではニコニコ生放送でも配信していたことが明らかになっている。この男性はニコ生で様々な動画を配信する生主だった。ニコ生の場合、一つの番組は30分の枠と設定されている。しかし男性は亡くなった後も配信されることを考え、配信時間の制限がないUstreamを使っていた。
「自殺配信」がなされると、ユーザーが警察に通報するといったこともでてきている。2010年11月の仙台市在住の男性の場合も配信中に警察に通報された。私がこの配信に気付いたのは、すでにベランダで首をつっているところだった。それを見てすぐに問い合わせたが、仙台北警察署では「個人情報なので教えられない」と回答。宮城県警広報課では「情報は入っていないし、入ったとしても発表はしない」ということだった。
2012年5月に中継があった男性の遺族には取材することができた。北海道では名の知れた生主だったようで、高機能自閉症と診断されており、定時制高校に通う傍ら、福祉施設で職業訓練を行なっていた。この日は中継を見ていた人たちが泊まりに来ていた。
自殺した理由は主に二つある。この男性は、編集ソフトを使い、3Dで街を再現し、その画像をニコ生にあげていた。配信1000回を記念して作成した、アニメ『けいおん!』の舞台となった高校を再現した際の評判がよくなかった。ニコ生に居場所を見つけていた男性にとってはショックだったようだ。
そしてもう一つの理由は、福祉施設で職業訓練を行なっていたとき、指導員に「いじめにあっている」と感じたことだ。指導員はいじめるつもりはなかっただろうが、高機能自閉症の特性を十分に理解していなかったのか、男性を悩ませてしまうことになってしまう。そして、男性は頭の中でパニックになった。
男性はそのことをニコ生のほか、Yahoo!知恵袋でも相談するほどだった。しかし、結局、悩みを解消できず、ひとつのこだわりとなってしまった。北海道で知られているものの、全国的には無名な生主だった。コミュニティレベルをあげることにこだわっていたこともあり、様々な感情が負の方向へ結びついた。
「究極の動画宣伝方法を思いついた」
最後の放送でこんなことを言っていた。それが自殺中継だった。亡くなる寸前までコメントを残し、ユーザーと話をしていた。ニコ生に居場所を見つけた男性は自殺を考えたときに、その居場所に集まる仲間に思いを伝えたかったようだ。
そして、その思いの強さが「究極の動画宣伝方法」になってしまった。
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Written by 渋井哲也
Photo by 若者たちはなぜ自殺するのか
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