新年早々、とあるクライアントより、異物混入被害についての相談を受けた。いま世間を騒がせている「店の商品にいたずらしてみたw」などと題する異物混入動画投稿事件についてだ。
警察に被害申告したところ、すでに犯人は特定されており、別件で逮捕状を請求することを理由に被害届の受理を保留された。明確な証拠が揃っている事件から処理して、いち早く逮捕状を取り、身柄の確保を優先するのは警察の常だ。その他の余罪は、逮捕後の調べで立件していくつもりらしく、事後の協力を約束させられた。
ベテランの腕利きGメンと一週間に渡って特別警戒した
費用対効果を考えれば、すべて警察に任せておきたいところだが、再犯や模倣犯に対する警戒を怠る訳にもいかない。対策に頭を抱えるクライアントの担当者と共に投稿動画を確認してみると、異物を混入する動画のほかに、自らの万引き行為を撮影した動画もみられた。その中で「万引き動画を百回更新する」と宣言した犯人は「万引きで日本一になるのが目標だ」と言い放ち、「超余裕ですよ」「反省はしない。反省したら負け」という言葉を繰り返している。我々に対する挑戦ともいえる言葉に、得体の知れない怒りを感じたのは言うまでもない。この手で捕まえてやりたいと闘志を燃やすのは、店内犯罪を専門に扱う保安員として当然のことだろう。
投稿動画から得られた情報からすれば、チョコレート系の菓子やペットボトルのドリンクを狙う犯行が多く、隠匿よりも持ち出しの手口が目立つ。犯人は小心者らしく、万引き日本一を目指す者とは思えぬ大きな挙動を示しているので、我々の目に入れば比較的容易に検挙できる事案といえる。動画が投稿される度に挙動は小さくなり、犯行に要する時間も短くなってきてはいるが、我々の目をごまかすことはできないレベルの動きだ。
だが、流しの犯行を繰り返す常習者と遭遇する確率は低く、偶発的に捕捉されるという事態に期待するほかない。そうしたことを説明したところ、直接被害にあった店舗と、隣接する店舗で特別警戒を実施することとなった。犯人と遭遇する可能性は極めて低いが、指名検挙での失敗は許されない。万全を期するために、ベテランの腕利き保安員を中心にシフトを組んで、神出鬼没な愉快犯の来店に備えた。
警戒初日には、すぐそばの他店で犯行に及んだ動画が投稿され、現場が緊張に包まれた。動画が投稿される度に、その影響力は強まるに違いなく、一刻も早い逮捕が望まれる。捕まえてやるから、ウチの現場に来い。そう願いながら警戒を続けてきたが、投稿動画をみる限り同じ店で再犯に至ることはないと思われ、犯人の行動範囲も広がってきた。もはや東京で遭遇する可能性はない。およそ一週間に渡って実施された特別警戒は、犯人の少年に逮捕状が出されると同時に終了した。十九歳の稚拙な犯行に翻弄された結果は悔しいが、こればかりは仕方ないのである。
一月十四日の逃走宣言から四日目。指名手配されながらも出頭することなく逃走した少年は、滋賀県の米原駅で待ち受けていた捜査員に逮捕された。逮捕される十八日の朝に公開された動画をみれば、名古屋駅ホームのコンビニでペットボトルのお茶を盗んでおり、お決まりのセリフである「超余裕」を繰り返したうえに「俺は神様以上の存在だ」という意味不明の発言もあった。捕らえてみれば大人しく、素直に犯行を認めたというから、画面の前でしか大胆になれない肝の小さな男なのだろう。
万引き動画の一部は、事前に持ち込んだ商品を盗み出すという自作自演だったことが判明。少年の部屋からは、穴の開いたスナック菓子の容器も発見された。いずれにせよ、万引きされることよりも、持ち込んだ商品を店内に陳列されるという行為が簡単に成し遂げられていることのほうが問題だ。商店の急所を突いた悪質な悪戯は、グリコ・森永事件を彷彿させ、店内犯罪の摘発に携わる者として大きな不安を覚える。
動画に寄せられたコメントには「捕まって残念」などと、犯人の逮捕を惜しむ内容もみられ、危惧していた通りに模倣犯も増えてきた。全国の店長さんや保安員の皆さんには、持ち込み商品による誤認の誘発や、異物混入商品の陳列に対する警戒を強く促したい。
Written by 伊東ゆう
Photo by Youtubeより
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