群馬県警の警察官が小学生の女児を誘拐しようとした事件で、警察のあまりにも愚か過ぎる責任転嫁が始まっている。この事件は逮捕当初から「中年男性と女児が出て来る電子書籍を読み、そういう事もあるのかと感化され抑えられなくなった」など、さも電子書籍やマンガの影響だと言わんばかりの報道内容だったのだが、ここに来て捜査状況などではなく「逮捕された犯人が読んでいたマンガの作家名」がばら撒かれ始めたのだ。
この事件には、世間の人々が等しく恐怖を感じるであろう軽視できない要素が多い。例えば犯人の巡査がどうして女児を知ったのかという点。捜査の中で、犯人が女児の名前を呼び、父親の名前を口にし、信用させて連れ去った事が明らかとなった。では犯人はどこでその名前を知ったのだろうか。地元住民の証言によると、犯人は日頃から被害女児の住む地域を何度もパトロールしていたらしく、巡回連絡カードに記載された家族構成などの情報を悪用したとする線が濃厚(むしろそれ以外に知る手段が思い当たらない) と言われている。巡回連絡カードとは、地域住民の安全を守るため、家族の名前や緊急の連絡先などを書き込んでおくもの。住民らは警察を信用して自らの、そして家族の個人情報を預ける訳で、それを小学生女児の誘拐に使うなど言語道断である。
今回の事件で注目し、また強く非難すべきは、こうした警察権力の悪用であろうにもかかわらず、どうして電子書籍やマンガ家の名前など、どうでもいい情報を流布させようとするのか。警察の思惑に乗っていらない情報を垂れ流すメディアもメディアである。この事件では動機がどうの以前に、国民の信頼を裏切る行為を働いた警察官と、きちんと教育を施せなかった、そして管理できなかった警察組織を非難すべきであって、マンガ家の名前など最も優先順位の低い情報だ。
また、この件で電子書籍やマンガを悪玉に仕立て上げる愚行は大きな危険をはらんでいる。簡単に言うと「真の病巣を見落とす」のだ。 そもそも論として、問題となった電子書籍を読んだ人間が1,000人いたとして、その内の1人が犯罪に手を染めたと考えるならば、同時に「999人は女児を誘拐しようなどと思わなかった」とも考えねばならない。 そこで事件のトリガーになってしまったのは何だったのか深く考えず、気に入らないから、叩きやすいからと適当な要因をでっち上げたら、そこまでで思考が止まってしまう。それは事件の要因を野放しにする行為に他ならず、今後も被害者(場合によっては犠牲者)となる子供が後を絶たないだろう。
それに、この手の女児誘拐事件はマンガ・アニメ・ゲームなどがこの世に存在するより前からあった話である。それだけでも 「女児を誘拐したいと考え実行に移してしまう人間が現れる理由は創作物ではない」と理解できるはずだ。 にもかかわらず、警察の浅はかな電子書籍への責任転嫁が許されるというならば、過去に警察官が起こした不祥事の数々を持ち出して「日本警察が腐り切っているからこれほど大勢の犯罪者を生み出すのだ」とし、警察組織の解体を求めてもよかろう。 しかも今回の件に限っていうならば、犯人は警察官だからこそ知り得た個人情報を犯行に使った可能性が大なのだから、「警察組織のせいでこのような犯罪が!」という声もあながち大ハズレとは言えないのである。警察官に「職務上知り得た情報を子供の誘拐に使ってはいけません」という、冗談にもならないような初歩中の初歩すら叩き込めなかった点を何より問題視すべきで、電子書籍がどうのといった、取って付けたような言い訳に注目を集める必要など皆無だ。
馬鹿げた見当違いの真犯人探しをしているヒマがあるなら、二度と同じような手口の犯罪が起きないよう予防に努めるのが警察の仕事ではないのか。その予防に "電子書籍" など全くもって必要のない要素である。
Written by 荒井禎雄
Photo by Dale Smith Imaging
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