単純所持の猶予期限まで5ヶ月 児童ポルノ保護法の知っておくべき基本

2015年02月14日 児童ポルノ

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 児童ポルノ法の改正により、単純所持も処罰の対象となった事は記憶に新しい。施行から1年間は猶予期間が設けられたが、このまま行けば15年の7月からは "児ポ" と看做される何かを所持していた場合(単純所持だけならば) 1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる。

 事態がこのように進行している以上、いい加減に "児童ポルノ" という単語の誤った使用が減るのではないかと淡い期待を持っていたのだが、2015年となった今も相変わらず周回遅れの "アニメ・マンガ・ロリコン・オタク叩き" が収まる気配がない。お陰で興味を持って情報を追っている人間でもない限り正確な情報が解らず "見えない児ポ" に怯える事になってしまいそうだ。

 そこで、今現在ハッキリと明言できる事を中心に『よくある間違った児ポ批判』に対して反論しつつ『児ポ法の問題点』もまとめておこうと思う。 いま手元に疑わしいデータ類があるという方は、これを読んでそれらをどうすべきか判断して欲しい。 

●『よくある間違った児ポ批判』

(1)アニメ・マンガ・ゲーム等は児童ポルノだ!

 アニメやマンガといった、実在する人間をモデルとしていない "いわゆる二次元作品" は児童ポルノに含まれていない。 中にはロリコンコンテンツとレッテル貼りをして何から何まで違法だ児ポだと騒いでいる輩もいるので、アニメやマンガを指して児童ポルノと呼んでいる記事があったら、その発言者は不勉強か偏った思想の持ち主かのどちらかである。 よってそこから先の文章は無視すべきだろう。

(2)海外ではこう言われている!

 自国の文化や価値観を守り、またそれを諸外国に理解して貰うよう粘り強く説明し続ける事は、やって当たり前の努力である。 また、日本をひとりの人間と見立てて考えて欲しいのだが、日本の価値観・思想・宗教観などは 「内心の自由」 であると言え、他人(欧米諸国) につべこべ言われる筋合いはない。 海外の価値観に合わないコンテンツを無理やり輸出しているのであれば批判も仕方ないが、日本国内だけで流通している物については、日本人が自らの倫理観などを元に取り締まるか否か判断すべきもので、これは内政不干渉の原則に基いて守られているはずである。

(3)児ポ・表現規制反対派はアニメ・マンガ好き=オタク=ロリコン

 これなど根拠も何もない差別感情むき出しのレッテル貼りである。 児童ポルノ法の問題点を指摘し、表現規制に反対する人々のすべてがアニメ・マンガのマニアという訳ではない。 個人の嗜好をさておいても内容に問題が多すぎたから、様々な立場の人間から批判や非難が集まったと考えるのが正確な認識である。 またそうした切り口を捨てて考えたとしても、日本のアニメやマンガの歴史がこれだけ長く、また立派に経済活動と呼べるほど大きなお金を動かしている以上、他の業種・業態と同様に守られて当然だ。 一部の人間の嫌悪感を理由に産業を潰そうとは、正気の沙汰とは思えない。

(4)ロリコンだけが児童ポルノ法に反対している!

 3と内容が被るが、児ポ問題が取り沙汰されて以降、最も便利に使われ続けた卑劣なレッテル貼りがコレである。 自分達と価値観の異なる人間を 「○○だ」 とレッテル貼りをし、それだけを根拠に自分の正しさを主張するなぞ、それが差別や迫害でなくて何だというのか。

 もし二次元コンテンツを批判したいのであれば具体的な数字・統計・証拠といった議論に値する何かを提示すべきで、「ボクがワタシが嫌いだから」 が根拠として通用するというのなら、日本は未だに魔女狩りの時代にあるという事だろう。 また児童ポルノ法に反対している人々の中には 「むしろ子供を性被害から守れなくなるから内容も名称も変えるべきだ」 という声がある事もお忘れなく。 児童ポルノの範囲を広げすぎると、あちこちで萎縮が起き、子供の被害状況や現実に何が起きているかの把握すら困難になる。

  またポルノという単語の意味が強烈すぎ、近親者による性虐待といった 「子供に振りかかるおそらく最も抗い辛い危険」 に対する目眩ましにもなってしまう。 現に母親のヌード撮影のモデルをやらされていた女性が、自身の経験から告発・問題提起した映画が、日本では業界の萎縮によって上映不可になりかけたという事実を忘れないで欲しい。(映倫が性被害児童の告発映画『ヴィオレッタ』を児童ポルノ扱いに? http://tablo.jp/case/society/news001453.html

(5)マンガやアニメの影響で性犯罪が!

 4の補足的な内容になるが、現時点でアニメやマンガが性犯罪の発生件数にどのような影響を及ぼしているか定かではない。 この "影響" という単語には2つの捉え方がある。 表現規制したい人々は 「二次元コンテンツのせいで性犯罪が増加した」 と主張したいようだが、逆に 「二次元コンテンツで解消できるからこそ、日本は諸外国に比べて性犯罪の発生件数が少ない」 という意見もある。 しかも両者を比較すると、より具体的な数字による補足ができているのは後者の方だ。 日本よりも表現規制の厳しい国(仮にアメリカとしよう) で、子供が犠牲になる事件は年間で何件起きているか。 それに対して日本で同じような事件が何件起きているか。

  それを照らし合わせた結果 「日本の方がまだ安全」 と判断できる数字が出たのだが、規制派は何故かこうした数字を積極的に表に出そうとしない。 ただ、こうした犯罪発生件数と二次元コンテンツの関係性は証明されていないので、どういう立場にあるとしても 「なるべくそれを根拠にはしない」 というのが理性的ではないかと思われる。

●『児ポ法の問題点』

 上では見当外れなアニメやマンガ批判に対する反論が主となったが、ここからは児童ポルノとされる "三次元コンテンツ" に関する問題点を挙げていく。

(A)何が児童ポルノになるか解らない

 ハナから酷い話で恐縮だが、ここまで言っておきながら 「何が児童ポルノなのか?」 がハッキリしていない。 というのも、猶予期限が切れるまで半年もない状況だというのに、未だに公的なガイドラインが提示されていないのである。 まず踏まえておきたい確実な点は以下である。

・ヌードはアウト
・セミヌード程度であっても胸や尻が写っていたらアウト
・乳首や性器を写さなければ良いという訳ではない
・男女の区別はないので被写体が男児であってもアウト
・自撮りであっても被写体が未成年ならアウト

 これらには 「自己の性的好奇心を満たす目的で」 という前置きがあるにはあるが、その "性的好奇心とは何か?" の説明が一切ない。 いくらでも拡大解釈が可能なので、とにかく未成年者の胸・股間・尻といった部位が写っていたらアウトと考えるよりない。 「入浴中の自分の子供の写真や映像」 などであれば許される可能性は高いと思われるが、それにしても100%OKと明言されている訳ではない。

 またこれらで特に注意すべきは、未成年のコスプレイヤーなどの自撮り写真である。 目立ちたい、アピールしたいという動機は充分に 「性的好奇心を満たす目的」 だといえ、『何人も、児童買春をし、又はみだりに児童ポルノを所持し、若しくはこれに係る電磁的記録を保管することその他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならない』 という一文がある以上、被写体本人も罰則の対象となってしまうのだ。

※参考記事 『児童ポルノ禁止改正法が成立でジャニオタやコスプレイヤーが処罰の対象に?』 http://tablo.jp/case/society/news001537.html

(B)どのような捜査が行われるか解らない

 先日のamazonがマーケットプレイスに出品された児ポを放置していたとして家宅捜索を受けた件で、押収された書類等の中に顧客リストがあったと言われている。 となると、猶予期限が切れると同時に疑わしい商品を購入した履歴がある人間の元に、突然警官が訪ねて来るといった展開が予想される。 なんせ何が児童ポルノなのかが解らないのだから、やられる側としては騙し討ちもいいところだろう。 今後も様々な通販サイト等で同様の摘発が行われる可能性があるので、現時点で買った側への罰則がないとしても、購入は控えるべきだろう。

(C)ウィルスやハッキング等による被害が予想される

 とにかく穴だらけの法律なので、第三者によるイタズラや悪意による陥れへの対処も考えておくべきだろう。 例えば気に入らない相手に対して少女のヌード画像を送り付けて警察にタレ込むといったイタズラを繰り返し行うとか、隙だらけの政治家のTwitter宛てに児ポ画像へのリンクを尤もらしい偽装を施した上で送り付けてRTさせるとか、幼稚な嫌がらせが続発する事が予想される。 この場合はイタズラを仕掛けた側に逮捕者が出るケースも多かろうが、一定のリソースを割いて対応する必要に迫られる。 仮に身の潔白を証明できてもヤラレ損であるし、そもそも知識のない人間がイタズラされた場合にどうやって証明すればいいのだろうか。

(D)捨てたという証明が難しすぎる

 猶予期間中に児童ポルノを捨てたとしても、それを証明するにはどうすればいいだろう。 公には 「今のうちに警察署に児童ポルノを持って自首して捨てればいい」 などと言われているが、それをしたから今後二度と警察の取り締まりの対象にならないという保証はない。 警察が家に来る事までは警察都合なので防ぎようがなく、来たら来たで家探しされる。 DVDといった目に見える物体であればあるかないか確認は簡単だが、問題はPC等に入っているデータだ。

 仕事でパソコンを使う人間からすれば、家に警察が来て長々と中身をチェックされていたら仕事にならない。 仕事相手に 「家に警官が来てパソコンを開かれているので締め切りが守れません」 と言ったところで許されるはずもなく、むしろ人格を疑われて職を失うだろう。 自宅PCと仕事PCを分けているといったところで、警察からすれば捜査の対象が所持している全てのPC(またはスマホ・タブレット) の中身を見るだろうから、警察が来てしまった時点で逃げ場がないのである。

 さて、このように不安だらけの法律なので、正直に言うと 「これをこうすれば安全」 という指南など誰にも出来ないというのが現状だ。 唯一言える事は 「疑わしいDVDは捨てる、データは消す」 だけである。(それでも警察の捜査の対象にされた場合に犯罪者にならずに済むというだけ)

 また、児ポ改正前の商品やデータであっても対象とされるので、大昔の写真集だからとか、歴史的価値の高い物だからといった言い訳は聞いて貰えないと考えるべきだ。 警察からすれば芸術がどうとか資料としてどうのといった考え方はハナからない。

 この記事を読んで無茶苦茶に感じた方も多かろうと思われるが、それこそ児ポ改正反対派が強く主張していた 「単純所持禁止はやり過ぎだ」 という言葉の意味だったのである。 過去形で語るべき内容ではなく、今後は再度の改正に向けて動かねばならないのだが、それを実現させる為には 「あまりにも可哀想な生贄」 が必要になってしまうかもしれない。

 いま我々が国や警察に強く求めるべきは、何がセーフで何がアウトなのか、もしくはここさえ守っておけば絶対に犯罪者にならずに済むという、具体的なガイドラインの提示だろう。 それがないままに罰則だけ科せられるならば、もはやこの国は法治国家とすら呼べないのではなかろうか。

Written by 荒井禎雄

 Photo by 采采蠅

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