2007年8月24日に愛知・名古屋で起きた悲惨というには余りにも惨い事件。いわゆる名古屋闇サイト事件について、被害者の女性のそのときの状況を遺族の心情からの視点で、10月9日TBS系列で放送された。
事件は当初、ひそかに流行っていた、いわゆる闇サイトに書き込んだ者たち三人が、金欲しさに行きずりの女性を拉致、殺害したという全く同情の余地がない事件である。その動機が愚かという言葉で済まされないほど、どうしようもないものだ。
実行犯三人のうち、主犯で死刑判決後、執行された神田司元死刑囚はヤクザを匂わせ、オレオレ詐欺グループのリーダーだったとハッタリをつく。それに触発されたほかの二人、堀慶末無期懲役囚(控訴中)、川岸健治無期懲役囚は「俺も拉致ならあります」とか、いわゆるワル自慢が行われる。
以前、私が暴力団員に取材した際、彼は刑務所に入っていた時の事を話してくれた。彼、そのヤクザは坊主頭で180cm以上あり、刺青もがっつり入っており、道ですれ違ったら目をそらしたいタイプである。罪状は銃刀法、傷害、覚せい剤所持などいくつものが重なっていて某刑務所に服役していた。少年のころからヤクザだった彼から見ても、刑務所の中は「異常だった」という。
「あそこは更生する施設じゃありませんよ」と暴力団員は言う。「いろいろ知恵つけてまた仲間も増やして戻ってくるシステムです。だから再犯率が高いんじゃないですか?」との事だ。
反吐が出ますよ、と言いながら「俺はどれだけ残酷な殺し方をした」「殺すときは全然ビビらなかった」「今まで何人殺した」というワル自慢が始まり、それによって気分が高揚しているさまが我慢ならなくなって、その暴力団員はその輪から外れていたという。
暴力団員と言えど人間である。現役の人間は自らヤクザとは名乗らない。まあ堀無期懲役囚、川岸無期懲役囚あたりの人間にはそれがブランドになったのだろう。大体組織に俗している人間は闇サイトで知り合った一般人の女性を拉致・殺害などはしないだろう。
ここで言いたいのは、小悪党ほどワル自慢をするという事だ。本物のワルはしない。ワル自慢に対して気持ちが引いても「引いた」とは言えない。なぜならワルのサークルの序列の下になってしまうからだ。
懲役の怖さと服役後の損得を考えて、ヤクザは刑務所に入る。そのような計算すらできない、どうしようもない小悪党が「ワル自慢」の末に起こしたのがこの事件の動機の一つだ。そんな愚劣な動機のために犠牲になった被害者の女性がかわいそうでならない。恋人もいて、これから人生を謳歌するその矢先である。
ワル自慢。
これは誰でも一回はしてしまう事だ。しかし、それを普通の人は恥じる。「みっともない事言っちゃったな」と。その反省がないまま、最悪の事態を引き起こしてしまった実行犯三人のうち、一人は鬼籍に入っている。二人は無期懲役だが、堀無期懲役囚はそれに不服で控訴中だが、最高裁で判決がひっくり返る事はまずない。遺族の方はこれでも満足をされていない。その気持ちを汲み取り、またこの事件について一人ひとり考えるべきである。(中村健二)
いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件
大崎 善生
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こんな残酷な事件があってよいのか。
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