酒鬼薔薇聖斗を崇拝?「人を殺したかった女子大生」の痕跡を追う

2015年01月29日 女子大生 殺人事件 酒鬼薔薇聖斗

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<「ついにやった。」>

 1月27日、愛知県名古屋市昭和区のアパートの風呂場の洗い場で、同市千種区の無職、森外茂子(ともこ)さん(77)を殺害した疑いで逮捕された名古屋大学1年の女子学生(19)のものと思われるTwitterでは、こうつぶやかれていた。時間は犯行の日昨年12月7日の、17時35分。犯行後のツイートではないかと思われる。

 日常を失わずに殺人を楽しめることが理想なんだと思うーー。

 こうつぶやいていた女子学生からすれば、一ヶ月は「日常を失わずに」済んだということになるのか。報道によると、女子学生は昨年12月7日昼ごろ、自室で森さんの頭をおので数回殴ったという。しかし「完全に死んでいないのでマフラーで首をしめた」「遺体を風呂場に運んだ」などと話している。2人にはトラブルがあった。森さんは女子学生の部屋に宗教の勧誘に行っていた。犯行当日の午前中に宗教施設を訪れている。それらが何らかのトラブルや行き違いを生み、それが犯行につながったのだろうか。

 ただ、殺人願望そのものがあったのでは? と思わせる書き込みがなされている。女子学生の5月12日のツイートでこうある。

<「殺したい」人はいないけど「殺してみたい」人は沢山いる。>

 女子学生のアカウントの元になったのは、2005年の「静岡女子高生母親殺害未遂事件」で使用された毒物の名前「タリウム」だ。その女子高生と同様に、化学が好き。進学先も理学部で、サークルのプロフィール欄では趣味に「薬品コレクション」とある。自殺願望や自傷癖のある人たちを取材していると、薬品に興味を持っている人がいたりするが、薬品を通じて、死とシンクロしているのでは? と思うこともなくはない。

 アカウントは「タリウム」のほか「123」という数字がある。これは、日航ジャンボ墜落事故の123便を指している可能性がある。9月3日のツイートでは、

<123便墜落事故のとき、宅間守は死体が見たいが為に遺族のふりをして安置所に行った。 #雑学 #豆知識>

 とあった。通常、この墜落事故について「日航機」や「日航ジャンボ機」とか書けば事足りる。わざわざ「123便」と意識的に書いているのではないか。ただ、意識したのは、事故そのものよりも、大阪教育大附属池田小学校児童殺傷事件で死刑判決を受けた宅間守死刑囚への興味だったのかもしれない。

 10月30日には、墜落事故があった「御巣鷹山」と、神戸連続児童殺傷事件で「酒鬼薔薇聖斗」が小5の児童を誘い出し殺害した「タンク山」に触れている。

<御巣鷹山でもタンク山でもいいから取り敢えず登山したい気分。>

 このように、いろんなことを事件につなげてつぶやいていた。

●酒鬼薔薇聖斗を崇拝していた?

 この女子学生は「人を殺してみたかった」と供述している。同様の供述はこれまでにもある。昨年7月、長崎県佐世保市で同級生を殺害し、遺体を切断した「佐世保女子高生殺害事件」が記憶に新しい。ただ、以前にもこう供述した少年の事件が続いたことがあった。

 2000年5月1日、愛知県豊川市で、見ず知らずの主婦を殺害した少年は動機として「殺人を体験してみたかった」と話していた。その2日後、西鉄高速バスをジャックした事件が起きる。豊川市の事件に触発されたと言われている。バスジャック事件では、2ちゃんねるに犯行前に書き込みがあったことから「犯行予告」とされ、2ちゃんねるが注目されるきっかけとなった。

 バスジャックの少年は1997年の神戸連続児童殺傷事件の「酒鬼薔薇聖斗」を崇拝していたとも言われている。この少年と今回の女子学生の共通点は、過去の事件をよく調べ、ときには崇拝しているかのようでもある。

 Twitterには、酒鬼薔薇聖斗botがあるが、「誕生日おめでとうございます」とリプライし、「ありがとう。1日を大事に過ごす日や」と返信があった。すると、

<酒鬼薔薇Botから返信もらえた死ぬほど嬉しい>

 とつぶやいていた。また、こんな書き込みもあった。

<今日は守大助さんの誕生日だよ~♪宮城出身の人だよ~♪みんな祝おうね>

 守大助被告は仙台市泉区のクリニックで、患者を筋弛緩剤を使って死亡させたとして無期懲役が最高裁で確定しているが、再審請求中だ。女子学生と同じ仙台市出身ということもあり、関心があったのかもしれない。その後も、「今日は麻原彰晃が逮捕された日です」「今日は津山三十人殺し事件が起こった日です」「今日は佐世保小6同級生殺害事件から10年が経ちました」などと事件関係のつぶやきも多い。

 ところで最高裁はかつて、平成9~11年に起きた殺人事件などの単独事件10例、集団による事件5例を分析していた。この中で単独の10件については、1)幼少期からの問題行動が親の体罰や叱責でエスカレート、2)表面上は問題を感じさせなかったが、温かい人間関係を作れなかった、3)思春期に大きな挫折体験――の3つのタイプに分類している。このあたりは今後の捜査に任せるしかない。

 一方、他の共通の特徴としては、自殺願望や他者への共感性がないというものだ。それらは私の主たる取材テーマであるが、いずれもツイートではわからない。過去の犯罪で犯人側への共感はしていても、被害者側への共感性が薄いことがあるが、ツイッター上のキャラ作りを主眼に置いていた可能性もなくはない。また、こうした事件では、殺害願望と自殺願望は関連する場合もある。ウェブ日記の中でそうした心情を綴っていた少年もいた。

 2003年11月、大阪府河内長野市で起きた家族殺傷事件。大学生の少年(18)が母親(43)を殺害。父親(46)と弟(14)に傷を負わせた。一緒にいた恋人の少女(16)も「自分の家族を殺そうと思った」と供述したことから、殺人予備罪で逮捕された。少女のウェブ日記にはこうあった。

「別れるよりは二人で死んでしまいましょう。一緒に生きる相手では無く、貴方は一緒に死ねる相手で在るから。愛しています。とても」

 2005年6月、高知県土佐市の明徳義塾高校の3年生(17)が教室内で同級生の胸をナイフで刺した。加害少年はホームページの日記で「明日こそは殺そう」などと書いていた。

 今回逮捕された女子学生も自殺願望について、

<「死にたい」とは思わないけど「死んでみたい」とは考える。>

 とつぶやいていることから、積極的なものではないが、自殺願望は持っていたということだろう。ただ、切迫した感覚ではないようにみえる。このアカウントでは、自殺や自傷についてはつぶやいていない。自殺や自傷の感情は別のアカウントを作って、そちらでつぶやいていた可能性もあるが、現段階では不明だ。

 ネガティブな思考を続けていると、社会が薄っぺらく思えることがある。「みんな表面的な人間関係を送っている」「自分の本音を隠しながら、我慢して生きている」「鈍感にならなければ、この世は生きづらい」などと思っていたりする。そんな思考の中では、特に大人たちに不信感を持っている。

 そんな思考から見た世界は、それほど価値のないものに見えたりしてしまう。仮に、殺人をしたとしても、失うものが大きすぎるし、周囲に迷惑がかかる。自分がやりたいものができなくなる。そんなことが最終的には歯止めになる。しかし、失うものがそれほど価値がなかったり、そもそも失うものがなければ、殺人をしない理由もなくなる。

 高知県土佐市の明徳義塾高校事件の加害少年はホームページの日記で

<殺したいけど、その代償は大きい。

 だけど、失うものが本当に大事なのかがわからなくなる。

 手に入れるモノはあまりにおぞましく魅力的だ。

 どうすれば私の攻撃性と猟奇性は満たされる?>

 と書いている。逮捕された女子学生がそこまでの思考に陥っていたのかは不明だが、「世界を壊したい」と「人を殺したい」は近い感覚で、それは自殺願望とも隣接しているのではないか。

 最近取材したある女子高生は「私が死ねば、(私にとっての)世界も終わる。それは(私の中で)他の人を殺すことでもある」と言っていた。この女子学生にとっても、自殺願望と殺害願望、破滅願望は、近いところにあるのかも、と思った。だとすれば、女子学生にとって、殺人という一線を越えることは難しくないのかもしれない。

 こうした事件が起きると、精神鑑定が多用され、人格障害や発達障害の枠内に落とし込められていく。そうした行為はある意味では、人々の無力感の反映なのかもしれない。ただ、それは思考停止ではないかと思う面もある。「障害があれば、理解できなくても仕方がない」と。

 しかし、人格障害であれ、発達障害であれ、運命論的にその人格が作られているものではない。それらの障害があっても多くの人は殺人をしない。また、私は「人を殺したい」と思っている少年少女を取材したことがあるが、殺人という一線を越えなかった。こうした思考の背景には、虐待やいじめ、体罰、将来への希望のなさ、喪失体験など、なんらかのトラウマによるストレスが影響していることもある。そのため、精神疾患名に振舞わされてはいけない。

Written by 渋井哲也

Photo by Brynn Tweeddale

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狂気の女子大生。

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