座間事件現場を今回は昼間に訪れました。現場百回と言います。この事件に関してコメントをする「有識者」は現場に一度でも来た事があるのですかね。またハイヤーで来る記者はその街にはどのうような空気が漂っているのか、体感しているのだろうかという疑問を抱きます。そういう意味では地道に足を運んでする週刊誌記者には親近感がわきます。知己も多いですし。
本題に入ります。実名報道、顔写真報道について、です。ワイドショーもこれ見よがしに顔写真と実名を載せていましたが、最近は控えている番組もあるようです。
以前、週刊新潮の版元新潮社の写真週刊誌「FOCUS」では、加害者の少年犯罪者の顔写真と実名を報道しました。神戸児童連続殺傷事件、通称「酒鬼薔薇事件」です。これは物議を醸し出しましたが、支持も得られました。「法は少年犯罪に甘いのではないか」という世論を味方につけました。幼い命を無残にも奪った残酷な犯行に対して、あまりにも少年法は緩いのではないか。そういう、世の中の空気がありました。少年法改正に一石を投じました。意味ある「挑戦」と言えるでしょう。
しかし、今回の座間猟奇事件で被害者の顔写真と実名を出す意味はあるのでしょうか。記事構築の手法としても、意味はないでしょう。被害者の名前、顔写真を出さなくても、優れた犯罪ルポルタージュはたくさんあります。
例えば、「19歳」(永瀬隼介著 角川文庫)は市川一家四人殺人事件を描いています。被害者の実名は掲載していなくても、犯行がどのように行われたのか、が分かります。この事件は犯人が19歳でした。未成年だが死刑判決がくだされた事件で、永山則夫元死刑囚以来の未成年での死刑判決でした。
被害者遺族にも「19歳」では取材しています。遺族の悲しみが伝わってくるルポでした。しかし実名も顔写真も出していません。
座間事件では「遺族が止めてくれ」と言っているのなら、やめるべきでしょう。心情的なものもありますが、再三言っているように記事のクォリティがそれによって落ちる事はないからです。取材する方も自制したいものです。(久田将義)
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犯罪報道の在り方を考えたい。